第23話

 古山に定期テスト勉強の面倒を見るようになって早くも数日が経過。

 居残り補習を相当恐ろしく感じているらしく、土日の休みも吉澤ともかなり勉強をしたらしい。

 そしてテスト週間に突入。どの部活もお休みになって、授業も本格的に試験に向けての話が多くなってきた。

 それに加えて、中学の頃よりもテスト時に出さなければならない提出物の量がかなり多い。

 特に英語や数学の課題の量はとてつもなく多く、一夜漬けで出来る量ではない。

 気楽に構えているやつもが部活が無いので遊びに行こうと言う話をしているが、間違いなく提出期限に間に合わなくなるやつだ。


「……まだテストまで一週間あるのに指定された提出物がほとんど手をつけられてる! こんなこと初めてなんだけど!」

「全体の七割ほどは終わっていますね。由奈がこの時点でここまで進んでいることに感動しますよ……」

「課題がしっかり出来ていれば、テストもうまくいくだろ」


 古山の課題が順調に進んでいるのは、きちんと勉強して内容が理解出来始めたからであると考えてよいだろう。

 課題は試験範囲なのでそれを余裕もって終わらせて、苦手なところを残りの時間で詰められれば間違いなく赤点を取ることはない。


「今日からは私も部活が休みになりましたので、放課後に由奈と勉強しますね。なので、桑野くんは自分の勉強を頑張って下さい」

「おう」


 今日からは部活が休みになって、空いた時間を利用して吉澤が古山の勉強を見る事になっている。


「しっかり勉強してくださいね。私は負ける気はありませんから」


 吉澤と何だかんだメッセージアプリのやり取りが続いていた中で話した内容として、今回の定期テストについても触れた。

 その時に、どっちが合計でいい点数を取ることが出来るか勝負しないかと言う話になった。

 ちなみに入学テストの結果では吉澤の成績は学年で五位という好成績で普通に負けた。

 実質吉澤に勝つということは、このクラスで一位を取ることになりそうだ。


「どんな勝負でも負けたら悔しいからな。二連敗というわけにはいかない」

「負けたら何かしてもらいましょうかね」

「……手ぬるいものにしていただけるとありがたいですよ」


 最近の吉澤は俺に対して本気で遠慮がないので、負けたらえげつないことになりそうだ。


「……二人とも勉強すごいもんなぁ。今回、私は平均ぐらいいけたらいいかなぁ」

「今回の頑張り具合を見る限り、そんな事はないかと。由奈は今回、このクラスの中でそうですね……。十位以内目指してみても良さそうですね」

「じゅ、十位!? それはちょっと厳しいでしょ……」

「いえいえ、どの科目においてもクラスの平均点の十点くらい上取れれば確実にいけますから! そうと決まれば勉強もっとしましょうね」


 吉澤の様子を見る限り、古山はあと一週間は嫌というほど勉強する羽目になりそうだ。

 そして、もう一人俺の席の隣人である葵は休み時間など空いた時間も黙々と勉強している。


「やってんな」

「まぁね。ボチボチやり始めないと私の感覚からして間に合わなくなるからね」


 あまり勉強の事について話さないが、こいつもなかなかに勉強出来る。

 普段からそこまで計画的に勉強するといったタイプではない。

 しかしテストが近付いてくると、とてつもない集中力で提出物の完成と自主勉強を行う。

 この集中力だけは、俺にはとても真似が出来なくて正直羨ましいと思っている。

 うちの妹も分からないことがあると、葵に勉強を教えてもらっていると言っていた。

 なぜ目の前にそこそこ勉強できる兄がいるのに、聞きに来ないのか。

 いくら姉のように慕う相手でも家族ではない。

 その存在にはっきり負けたような気がするので兄としてはとても悲しい。


 授業が終わると、そのまま帰宅して勉強。

 妹も同じくテスト週間に差し掛かっており、二人揃って飯を食うとそのまま部屋に籠ってひたすら勉強する。

 提出物の問題中心にもう一度解き直して、解くのに時間がかかるものや間違ってしまうものを重点的に復習していく。

 そんな流れで黙々と勉強していると、突然近くに置いていたスマホが震えた。

 手にとって見てみれば、相手は古山。


「今日からは吉澤が勉強見てくれたんじゃなかったっけ……?」


 放課後に学校に残ってそのままやるか、ファミレスにでも行ってやるか二人で相談して勉強の計画を建てていたが。


「もしもし」

『あ、桑野くん?』

「どうかしたか? 今日からは吉澤と勉強してるんじゃなかったのか?」

『え、えっと……。ま、まぁそうなんだけど』

「?」


 問に対する回答の歯切れが悪い。

 吉澤と一緒に勉強はうまくいかなかったりでもしたのだろうか。


『莉乃にしっかり勉強教えてもらったんだけど、もうちょっと頑張ろうかなって。でも莉乃は今、塾だから……』

「なるほど?」


 しっかり吉澤に勉強させられたなら、かなり疲れているはず。

 それでも勉強をもっと頑張ろうというのは、今日吉澤にいいライン狙えると鼓舞されたのが影響しているのだろうか。


『だから、少しの時間でもいいから一緒に勉強出来たらなって……』

「別に構わないぞ。分からないところがあれば聞いてくれればいい」

『ありがと!』


 こうして今日も先週と同じように、古山と通話しながらの勉強。

 基本的に、真面目にずっと基礎問題の解説やアドバイスを俺からしていくものであった。

 ただ、今日は違った。

 最初はそこそこ試験勉強の話をしていたが、すぐに話が逸れていつも勉強後に行っている雑談の方に向かっていく。


『でねでね……それで』

「うん」


 楽しそうに話す古山の声を聞いていると、止める気にはならない。

 放課後から数時間しっかりと吉澤に仕込まれたことも考えると、これぐらいのことは多目に見てもいいのだと思う。

 俺は、古山の話を聞きながらまとめることの出来る理科や社会などの勉強にシフトした。

 席替えをしてから、こうして二人で話す時間はすっかりなくなってしまった。

 こうして古山の話を聞いていると、それなりに落ち着くものだと感じる。

 テストが始まるまでの数日間の夜は古山との会話する時間となり、俺にとって少しだけリラックス出来る時間になった。



















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