第6話
敷地のはずれで話をしていたので、俺は駐輪場へ、吉澤は部活に向かうために再び校舎側に一緒に戻る。
「今さら聞くけど、古山のそういう面を知っているなら前にあった女子グループに仕事押し付けられてるの気が付かなかったのか?」
「気が付いてはいました。ですが、私が今入った部活で早速役割がありまして……」
「なるほどね……。まぁ早速役割すっぽかす事は出来ないよな」
「ご理解いただけて嬉しいです。何せ、マネージャーの仕事って思っていたより多いものですから……」
「え、マネージャーしてるのか」
「ええ、サッカー部のマネージャーしてますよ」
正直なところ、とても意外だ。大人しくて男子と関わることを進んでしなさそうな子に見えるんだけどな。
自分のやりたいことを遂行しそうなイメージだったが、どうも違うらしい。
「意外でしたか?」
「うん、とても意外」
「とても素直ですね……」
「だって嘘ついてもしょうがないし」
「運動部には憧れて入りました。実際にやるのはダメダメですからね」
「直接やるのはうーんってなるけど、色々と近くで見たり感じたり出来るもんな」
「ええ。それに用具を管理する力もつきますし、朝練とかもあって生活リズムが引き締まりますからね」
「色々と考えてんだな」
「もちろんです」
わざわざ男子しかないサッカー部のマネージャーをやっているとか言い出すから、実はいい男狙いなのかとか思ったのが、そんな自分が恥ずかしくなった。
あんな幼馴染としか異性との会話をしなかった結果、何でもかんでも不純な理由と結びつけようとする悪い自分がいる。
「そうおっしゃるあなたは?」
「入らない……。中学の時、勉強とうまくバランス取れなかったことが結構トラウマでな」
「あらら……」
「ま、何か悩む機会があれば考えればいいしな」
「それもそうですね」
そんな話をしながら軽く盛り上がっていると俺たちの目の前に慌ただしい様子を見せる古山が現れた。
「急がなきゃってあれ!? 桑野君と莉乃じゃん!何で二人が一緒にいるの?」
「由奈ったら相変わらずバタバタですね。桑野君とは二人で少しお話させていただいてたんですよ」
「そうそう」
「二人って接点無かったよね? どんな話??」
「内緒ですよ」
「そ、そんなに二人って仲良かったの!?」
「いえ、そうでもないですよ?」
「んん?? 全く分からないぞ……!」
元気よく話す古山と落ち着いた雰囲気で話す吉澤。
正反対に近い性格同士なのだが、それは仲良くなるための障害にはならないのだなと思わされる自然なやり取り。
それに加えて、個人的には吉澤の落ち着いた雰囲気と声から下の名前で親しく呼びかけるのが結構いいなと思ってしまった。
「莉乃は今からサッカー部のマネージャーとしての活動かな?」
「はい! 由奈は今日はどうされるのですか?」
「えっとね、昨日はダンス部の体験入部に行ってきたんだけど……。今日は書道部に行ってくる!!」
「色々と迷っていますものね。たくさん色んなところを見てきて決めるといいですよ」
「うん! 本当は莉乃みたいにやりたいことがしっかり決まってて早くからどんどん本格的な活動できた方がいいんだろうけど……」
「そんなことはありませんよ。色んなことに魅力を感じて前向きに検討できることは良いことです」
二人の話が盛り上がってしまってただ美少女二人の隣にいる変態みたいなりつつある。
このままフェードアウトするわけにはいかないか。
「あ、ごめんなさい。桑野君はご帰宅ですか?」
「お、そうだった!」
吉澤ナイス。多分吉澤が気が付いてくれないと、古山は永遠に俺がいることに気が付かない可能性が高かった。
「そうだな、俺はもう帰るわ。二人とも部活頑張って」
「はい、ありがとうございます」
「また明日ね!」
美少女二人に手を振りながら別れの挨拶を言われる俺の姿を見て、なんだこいつはというか視線を痛いほど浴びたので、そそくさと駐輪場に向かった。
ゆっくりと春の気候を楽しみながら帰る。
花粉症というものさえなければ、春という季節はとてもいい。
夕方に近いこの時間帯は風も冷たく、自転車に乗って暖まる体にちょうどよい。
帰宅すると、鍵が開いている。家族の誰かが一足先に帰ってきている証拠である。
「ただいまー」
「おっかえりー」
制服のまま靴下を脱いでソファーに座って足をパタパタとさせながらスマホを見てリラックスをしている妹がいる。
「妹さんや、先に帰ってるなら洗濯物位取り込んでからくつろいでもらえるか?」
「あ、忘れてた!!」
そう言って慌ててスマホ操作を止めて洗濯物を取りに行った。
うちの妹の名前は桑野亜弥。綺麗な藍色の髪をしており、俺の2つ下の自慢の可愛い妹だ。
今のやり取りだけだと自堕落なやつのように聞こえるが、基本的に真面目で勉強も出来る。
そして何より俺とあまり喧嘩することもない。
「危ない、兄ちゃんより先にお母さんが帰ってたら怒られてた」
「気を付けとけよー」
「うん」
妹も俺と同様に部活に入っていないために早い時間から帰宅している。
ただ入らない理由としては俺とは少し異なる。
運動神経抜群だが、家でのんびりすることが好きな妹は部活を根本的にやりたくないらしい。
「兄ちゃん、高校に入ってしばらく経ったけどなんかいい変化あった?」
「なんや、いい変化って」
「例えば超可愛い女子と仲良くなったとか……。いや、さすがにそれはこの数日ではありえないか」
「学年で一番可愛いと言われる女子からは仲間だと言われて連絡先を交換してもらい、その高嶺の華と一緒にいるトップクラスの美少女とも知り合った位ならあった」
「え? 何が起きてんの??」
「俺ですらよー分からん」
妹と仲は悪くないが、親がいる前ではそんなにたくさん話すこともない。
こうしてたまに帰宅が二人揃って親より早くて二人でいるときに、お互いの近況について話をすることがある。
今がまさにそのタイミングである。
「出席番号が近いからかぁ……。でもいいじゃん、高嶺の華を授業中っていう誰にも文句言われない形で独り占めでしょ?」
「独り占めって嫌な言い方をするな」
「私も出席番号の前後男子だけど全然仲良くないなぁ……。どんなトリック使ったの?」
「聞くな、俺には何も分からんのだから」
「むむ、でも諦めきれんな。葵姉ちゃんに見てもらっておこーっと」
「お前、そんなに葵と頻繁に連絡とってんの?」
「うん! だって葵姉ちゃん可愛いんだもん~!!可愛くなるために何してるか色々と教えてもらえるし」
「悪いことは言わない。もうやめとけ?」
「は? 嫌だし」
我が可愛い妹があんなビッチ幼馴染に悪い色に染め上げられたらたまらない。
妹は聞く気が無いようなので何とか葵の方に止めるように話を持っていくしかないのか……!
「そうだ、葵姉ちゃんってサッカー部のマネージャーするんだってね」
「あ、そうなん?」
「え……。知らなかったの?」
「あんまり話しないからな」
「あんな可愛い幼馴染といて何も知ろうとしないとか兄さん大丈夫??」
「うるさいわ」
妹が俺以上に幼馴染と仲良くなっていることにかなり不安を覚えている。
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