第4話
4月も後半に差し掛かり、授業の雰囲気にもみんなそれぞれ慣れてきた頃。
生活のリズムが落ち着いてきたためか、俺の後ろにいるやつも言えることで、あまり寝ることは無くなった。
ただ、相変わらず問題が分からないといって答えを何でもかんでも聞いてくることは変わらない。
そして助けを求める声を聞いて、渋々助けることも変わらない。
そんな中、5月に体育祭のあるうちの高校では、4月のうちから色々と一部の人が準備を行う。
小学生のように休みの日に行って親も見に来るというわけではないので、競技の練習とはほとんどしないので、一般生徒は何も変わらない生活を送っている。
「由奈ちゃん! お願い!」
「う、うん……。分かった」
「ありがとー! さすが由奈ちゃん!」
俺が休み時間にお手洗いから帰ってくると、古山の回りの席(俺のを含む)が女子たちに占領されている。
古山と話しているようだが、何やら本人は困ったような顔をしながら頷いている。
いつも古山が一緒にいる女子たちではなく、このクラスの体育祭運営委員に立候補してそのままやることになったこのクラスの女子の中心にしたグループだ。
ちなみに古山自身は活発的で明るいが、そこまでクラスの女子の中心といった感じではない。
一緒に休み時間を過ごしたり、昼食をとっているメンバーはどちらかというとおとなしめの子が多いという感じだ。
このうちのクラスの中心にいる女子たちは気が強くて何でもかんでもズバズバと勢いで決めてしまうことが多く、合わない意見を軽視する。
まだクラスが出来てまもないので、他の男子がこの女子グループをどう思っているかは知らない。
だが、俺の目線から見るととてつもなく印象が悪い。
「あ、席取っちゃってごめんねー!」
「ううん、全然大丈夫。気にしないで」
こちらに気が付いて大して申し訳ないとも思ってないくせに言葉だけ謝罪の言葉を口にする。
それに噛みつくとこちらの損にしかならないので相手の機嫌を損ねないようにだけしておいた。
女子たちは上機嫌で自分達の席に戻っていった。
やっと空いた席に腰掛けると敢えて古山の方を振り向かずに軽く質問してみた。
「あいつらに何か頼まれ事してたみたいだけど何だったんだ?」
「んとね……。まぁ大したことじゃないよ!」
「そうか」
いつも困ると俺の事を頼ろうとするこいつが特に気にすることではないというのだから大したことではないのだろう。
これ以上は俺から訊ねることはしなかった。
そして放課後になり、みんながそれぞれ部活に向かう中、俺は帰宅……とはいかずに山積みになったノートと問題集を抱えて職員室に向かっていた。
高校でも係や委員会活動というものがやはり存在する。
委員会は面倒で嫌だなーと思っていて何とか避けたいと思っていたら、うまく科目係に滑り込むことが出来た。
しかし、思ったより提出物が多くて集めるのも大変なことに加えて、40冊以上山積みになったものを運ぶのも大変。
「何で職員室にいないんだよ……」
そしてこういう提出物を届けるときに限って教員がいない。
置いて帰りたいけど、教員の机が散らかりすぎて置く場所もないし、こういう人に限って勝手に置いて帰ると怒るしな……。
結局、15分ほど待ってやっと職員室にやって来た教員に渡して解放された。
帰ろうとしたが、学校に置いておく物の中に今日家での学習や課題処理のために必要な教材が足りていないことに気がついた。
「一回教室戻るしかないか……」
誰もいなくなった廊下を通って教室に戻る。教室の横についたロッカーを開けて自分が必要な教材を取り出す。
「ん……?」
帰ろうとした時に教室に誰かがいることに気がついた。
そっと教室の中を除いてみると、古山の姿が山積みになったノートやら問題集とともにあった。
「あいつ、科目係じゃねぇだろ……」
古山は山積みになった提出物を丁寧に番号順に並び替えているようだ。
それにしてもすごい量で、一つの科目の提出物だけではない。
複数の提出物の管理をなぜ科目係でもないあいつがやっているのか。
「はぁ……」
古山はため息をついている。表情もいつものような元気さは一切ない。
「仕方ねぇな……」
教室のドアをガラッと開けてそのまま自分の席へと向かう。
「く、桑野君!?」
「随分と多いお仕事だな」
「ま、まぁね……」
「半分こっちに寄越せ」
「え……。悪いよ……」
「いつも俺を困らせることに抵抗が無いやつがこんなところで遠慮するのか?」
「ごめん……」
彼女の謝罪には敢えて反応せずに黙々と作業を始める。
今の席順が出席番号なのをきちんと利用して集めればこんな面倒なことにならないのに、適当に提出させたのかバラバラで思ったよりも時間がかかる。
提出物の内容を見ると、数学や社会、国語関係まである。
これを見ると大体どういう事が彼女に起こったのか聞かなくてもわかるような気がした。
「人に頼まれると断れない性格か?」
「うん……」
「そうか」
今日の休み時間に彼女が女子グループに頼まれていたこと。
それは女子グループが大半を受け持っている科目係を代わりにやってくれないかと言うものだったようだ。
「体育祭運営委員の仕事が外せないからって……」
「それは一人だけだろ? 後のやつらが代わりにやればいいのにむしろなんで他のやつの仕事もお前に押し付けてるんだ」
「部活とか色々あるんだって。みんな忙しいからって」
古山の今のイメージは誰もが認める美少女というものだけではなく、非常に明るくて優しいという印象が広がっている。
だが、古山の立ち位置は行動しだいでどうにでも変わるものだ。
それを当然利用しようと思っているやつはいる。
断れば「美人だから調子に乗っている」と言われる。
だからこそ断れない。それを利用しようとするやつは知っている。
男子からずっと可愛いと言われる女を見るのは面白くないと思う過激派は必ずいる。
これは遠巻きな嫌がらせと言ってもいいだろう。
「こんな風に頼まれると助けてあげなきゃって思っちゃうんだよね」
「……!」
俺の中では古山は自分自身のイメージが変わるので断れないのかと思った。
でも今の彼女の言葉と顔を見ていると、単純に彼女がお人好しなだけと分かってしまった。
そのまま一緒に少しずつ作業を進める。そして一科目ごとに一緒に職員室に運ぶ。
時間はかかったが、二人で分担してやれたことによって古山が重いものを持つ負担をかなり軽減することだけはできた。
「本当にありがとう」
「いいよ、別に。どうせ部活してないし」
「私って君に頼ってばっかりだね」
「せやな」
彼女は力なくそう言うが事実なので否定することもしない。
「君はこんな私の事をどう思う?」
「え? なんかしっかりして欲しいなって思うわ」
「うう……。はっきり言うね……」
「でも、そんなしっかりして欲しいお前がお人好しで何でも頼まれたらやってしまうことが分かってしまったからな……。これからも助けられることは助けてやりたいと思ったよ」
「!」
あんまり今は他の人にバレていないけど、いつもぼんやりしてるし、抜けているところもある。
それでこのお人好し。明らかに外から一瞥しただけで意図的な軽い嫌がらせであることですら素直に引き受けてしまう。
何とも純粋なやつだと思った。
「ま、同じ仲間としてしんどくなったら適度に頼ることだな」
「うん……!」
ポンコツのお人好しを見捨てられなくて助けてしまう。
自分自身もお人好しが過ぎるような気がした。
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