第3話

 入学生も最初の一週間が終わって次の週からは上級学年と同じで普通に朝から夕方までみっちり授業が始まる。

 春休みが明けた後も大して授業が入っていない日が多かったのと、部活も本格化してきたために神経の図太いやつは早速居眠りしているやつも多い。

 俺は部活を結局しないことにした。

 興味がある部活もあったのだが、中学時代にやっていた部活がハードで疲れきって帰ってくるとまともに勉強が出来なくて成績が下がったことが頭をよぎった。

 あのときはこっぴどく親に怒られてしまって今でも思い出すのが嫌な記憶になってしまった。

 部活をしていない俺からしたらそこまで疲労していないので、特に居眠りをすることはない。

 居眠りをしているやつは大体見つかって起こられてしまうが、このクラスでは古山と葵はとにかくバレない寝ることが上手いようだ。

 葵に関しては中学の頃から上手いのは知っていた。

 いつもコクリコクリとしながらも指名されるタイミングは必ず起きている。

 そして俺の後ろにいる古山由奈に至っては――。


「むにゃむにゃ……」

(めっちゃ寝てる声聞こえてるんですけど……)


 入学式の時の大胆な爆睡同様に相変わらず授業中もしっかり眠っている。

 しかし、こいつも葵と同じで何故か指名される順番が近づくと必ず目覚めるのである。

 それだけなら葵と同じで別にいいとは思うのだが……。

 いつもそのタイミングになると俺の背中を何かとシャーペンのようなものでつつかれる。

 チラッと後ろを見ると紙を手渡される。

 それを受け取って開くといつも俺にヘルプを求める文面が綴られている。


 <私の当たるとこって問題5のところだよね! 分からないから教えて!!!>


 はぁとため息をついて送られてきた紙に答えを書いて後ろにぽいっと投げる。

「おとと!」との声が聞こえた後、満足そうにうんうんと頷く声が聞こえる。

 そして指名されるとまるで完璧に分かっているかのように堂々と解答して正解してドヤっている。

 その授業も古山は主に俺のお陰で教員に怒られることなく、無事に乗り切った。


「ふぃー、今日の授業も順調!!」

「順調……じゃねぇよ。いっつも俺に頼りっぱなしじゃねぇか」

「いやぁ、近くに頭のいい人がいるのは助かるねぇ。本当に感謝してるよ、ありがと」

「……ったく」


 素直に感謝されてしまうと、咎める気が失せてしまう。

 ちなみに前の俺に聞くより横にいる人たちに聞く方が聞きやすいのでは?と以前行ったのだが、どちらもおとなしめの男子でいい反応がもらえなかったと嘆いていた。

 そういうこともあっていつも俺に聞いてくるのだが、こいつは自分で予習しておこうとかいう発想にはならないのだろうか……。


「次は情報の授業でしょ? さっきしっかり寝たから次は任せて!」

「寝ないでしっかり話を聞いてくれたらもうなんでもいいよ」


 高校に入ると情報っていう授業があってパソコン操作の勉強をするときがある。

 その時にパソコン室での席の割り振りが配線の都合で特殊になっており、一つのテーブルに2台ずつパソコンがくっついている。

 そんな状況を説明して一体、何が言いたいのか。

 そのテーブルに一緒に座るのが古山であって何か協力してやることなど基本的には古山と一緒にやらなければならない。

 しかし、肝心の彼女はこの授業ではあまり寝ることは無いものの、指示を聞いていない。


 いつも通り情報の授業が開始されると、パソコンをそれぞれ立ち上げる。

 そして教員の言われた通りの入力作業をしながら授業を進める。

 そしてこの時に大体、古山は教員の指示を聞いていなくてキーボードの上に手を置いたまま固まっているのがいつもの流れ。

 それを見かねて俺は何をするか言ってあげている。というかこの情報の時間に手助けした時からやたら授業中に頼られるようになったような気がする。


「うーん、今日も一日終わったー!」

「さっきは珍しくちゃんと聞いて頑張ってたな」


 先ほどの授業では彼女の公言通り眠ったり、ボーッとしないでちゃんと授業を受けていた。


「でしょー! さっきしっかり寝たから任せて!って言ったのは嘘じゃなかったでしょ!?」

「いつもそれで頼む」

「うーん、それは無理かなぁ」

「いや、すぐに諦めないで頑張ってくれ……」

「そう言われても諦めちゃうね!」

「なんでや……」


 頑張ってと言っても真面目にやる気を起こさない。

 彼女はその理由をニコニコ笑顔でこう言った。


「だってさ、頼りになる人がずっとそばにいるんだよ? 頭はいいから安心して聞けるしさ!」

「あのなぁ……」

「何たって何だかんだ言って助けてくれる優しい隣人仲間だし?」

「……」


 確かに今までこいつに頼られた時に敢えて黙ったりして答えなかったことはなかったような気がする。

 悪態をつきながらも毎回答えを教えて助けている。

 そこをしっかりと突かれた俺は何も言えなくなってしまった。


「そんな君を私はね、とても信用しているのだよ!」

「……いつ裏切られるか分からんぞ?」

「いいや、君はそんなことは出来ないね!」

「なぜそう言いきれる?」

「ん? 理由聞きたい?」


 話の流れとして訪ねてみただけだが、何故か得意そうな顔でこちらを見ながらそう聞いてくるので、頷いてみた。


「理由はシンプル!私が君のことをいい人と思ったから。以上!」

「聞いた俺がバカだった……」


 当然だが、彼女の言っている意味が分からなかった。理由としてあまりにも漠然としすぎている。

 消化不良に終わってしまったために、はぁとため息をついている一方、彼女はスマホを出してこんなことを提案してきた。


「考えるのはそこまでにして、信頼する仲間の特別特典として連絡先を交換しよう! これでいつでも連絡とれるよ!」

「交換しても話すこと無いだろ。それに特別特典ってグループチャット作ったから別にそこから誰でもお前と連絡先交換できるだろ」

「うぐっ……! と、とにかくせっかくなんだから交換しよう!」


 俺が突き返した正論に打ちのめしつつも、彼女と連絡先は交換した。

 やり取りすることがあるかは全く分からないが、この高校で初めて異性の連絡先をゲットしたのでよしとしておく。

 ちなみに葵の連絡先も知ってるけどあれはノーカウント。あいつは幼馴染なのでカウントしない。

 というか、葵に関してまともなやり取りはしていない。

 何か葵から連絡が来たと思ったら、妹に促されて渋々話に来たとかそういうやつだ。

 いつも文句は言うのだが、効果はなし。全くやめる気がない。せいぜい草を生やされて終わるだけ。

 そんなこともあってまともな異性の連絡先を知ったのは今回が初めて。

 その相手が学年で一番可愛いと言われるやつなのだからとても不思議な感じである。

 連絡先を交換し終わると、彼女がスマホを指で素早くタップし始めた。

 すると、俺のスマホに通知が来て彼女からのメッセージが来たことを知らせる。

 よろしくという可愛らしい動物のスタンプが届いた。

 そのスタンプを送った彼女の顔を見ると楽しそうに笑っていた。

 よく分からないやつだが、彼女の楽しそうな笑顔はとても魅力的だと素直に感じた。






































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