第2話

 俺を大変疲れさせる入学一日目を終えると、次の日からは俺以外の新入生にとっても忙しい数日が始まる。

 それに合わせて部活動の体験入部などが始まることによって他クラスとも交流する機会や上級学年と関わる機会が増える。

 すると一気に人間関係が発展することで変わり始めることもある。

 まず、クラス内グループが形成されつつある。

 大体運動部でバリバリな人同士とか、文化部同士とか同じ趣味とか色々と共通点をもって気の合う仲間と一緒にご飯を食べたり、休み時間を過ごしたりするようになる。

 そんな中で、こんな話題で男子の中では盛り上がっている。


 自分達の学年でどの女子がより可愛いのか。

 その話題の中に出てきたのは俺たち3組の中では二人。


 古山由奈と春川葵の二人である。


 俺はなぜかこの二人に入学最初から接点がある。

 この言葉だけ聞いたら他の男子は羨ましくて仕方がないのかもしれないが、俺からしたらそうでもない。

 この二人は学年の中でも美人四天王やらトップ3やら男子は好きな名称をつけてどう友達になるかすでに接近方法を考えているやつもいるとか。

 ちなみにこの二人以外の美人女子についてはクラスが違うこともあって俺は全く知らない。


「いいよなぁ、お前は出席番号の関係で由奈ちゃんと近いから」

「そんなにいいかな?」

「いいに決まってるだろ! あんなにいつもニコニコ笑顔で誰にも明るく接してくれるし、可愛いし」


 ちなみに古山由奈は容姿だけではなく、明るい性格で誰にでも明るく接するのでかなり評判がいい。

 最初はみんな話しかけたりかけられたりすることに抵抗があったりする中で、この性格がみんなの心をより掴んだと言っていいだろう。


「当然だけど、由奈ちゃんとは話したりすることもあるだろ!?」

「まぁあるけど……」

「いいよなぁ、羨ましい」


 俺と一緒にいる連中はとにかく古山と話す機会が欲しいのか、俺の言い分は聞かずにただただ羨ましがっている。

 しかし、正直なことを言うと俺は古山由奈と接する機会が多いことにかなりしんどさを感じている。

 この入学して最初の一週間は何かと出来事があるが、その中で大体出席番号の順になることが多い。

 そのせいで毎回、古山由奈が隣にいる状態になるためにいつも絡まれてしまう。


 入学試験が行われてその試験結果が返却された時。

 出席番号の順に試験用紙が返却される。教員は出来るだけその人の点数が見えないような渡し方をするが、それでもどうしても後ろの人からは見えてしまうもの。


「ねぇねぇ、試験の点数すごくいいね!」

「見るなよ……。というか見えてもいちいち言いに来るなって」

「どうして? 良いことなんだから気にしなくていいじゃない?」

「あのなぁ……。それはお前の考え方であって――」

「どうしたらそんなにいい点数取れるの? 勉強方法とか教えてよ!」

「俺の話聞いてねぇなこいつ……」


 眼科検診、歯科検診などの健康診断の時や生徒証の証明写真撮影の時に順番待ちしているときも。


「ねぇねぇ、桑野君ってさ部活どこにするかとか決めた?」

「うーん、決めてないな。というかどこかに入るかすら怪しいな」

「えー? それってつまんなくない? 私はね、色々迷ってるんだ~!」

「そ、そうなんだ……」

「高校になってから文化部ってすごく数増えたでしょ~!どれもいいなって! マネージャーとかも誘われたけどせっかくだから自分がしっかり活動できるものやりたいんだー!」


 とにかく俺に話しかけたとなるとそのまま楽しそうにずっと話している。

 こいつがどうしようが、どう考えようが俺にとってあまり関係のないことなのだが。

 純粋というか、無邪気というか……。葵とはまた違ってはいるものの、俺からすれば葵と同じく掴みにくいタイプ。

 だからこそしんどい。


 そんなことを感じ始めていたある日、今日も教室を移動して行わなければならないことがあって出席番号順になっていたのだが、あることに気が付いた。


(そういえば、番号順に一列に並んだときこいつの近くって女子がいないな)


 古山由奈の回りには気軽に話せる位置に女子がいない。

 前には男子の俺がいて彼女の後ろも男子。

 さすがに一人挟んで話をするのには多少無理があるし、挟まれている人間も不愉快だろうし。

 そう考えると、何だかんだ入学して最初から話したことある俺とは多少なりとも話しやすさのようなものを感じているのか。

 俺個人の勝手な推測でしかないが、そう考えるとあまり邪険に扱うことが自分の中で出来なくなってきた。


「桑野君、今日の調子は?」

「まぁまぁってとこかな」

「なるほど、じゃあ絶好調だね!」


 と、ボチボチやり取りをするようになった。

 それを滑稽とばかりに見ているやつも約1名ほどいた。


「あんたさぁ、学年で一番可愛い女子とたまたま運が良かったとはいえ、あんな簡単に近づけた上に仲良く話せるなんて変わったねぇ。高校デビューってやつ?」

「うるせぇよ」


 葵は面白そうに笑いながら冷やかしてくる。


「いいじゃない。みんなまだお互いのことを知らないし、最初が肝心よ。最初の相手って中々忘れられないものよ。どんなことに関しても」

「いやーな言い方するよな、お前って」


 人差し指を口元に当てながらそう話す葵の姿を見るととても嫌なイメージが湧いてくる。

 確かにみんなお互いの事が分かっていないからこそ第一印象は大事ではある。

 仲良くしてくれたり、困っているときに助けてくれたり、優しくしてくれたらしばらく時間が経ってもしその人に対して多少周りが良くないイメージを持っていても、個人的にはそう思わなかったり。


「ま、あんたの今後に期待ね」

「お前になんか期待とかされたくねー」

「ふふ」


 割と俺からしたらかなり嫌悪感を込めていったつもりだが、葵は楽しそうに笑っている。

 こうしていつも俺が悪態をついたときや嫌悪感や皮肉を込めていったことを楽しそうに笑うときだけはちょっとだけ可愛いと思わなくもない。













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