第29話

※怜視点


澪と手を繋いで大学に行く。澪とのスキンシップの量は変わっていない。澪の美しさも、澪への思いも。


この時に何かしらの変化もなかったはずだ。


そして、この後図書室で周と会う。司書と自分達しかいない空間で背徳感を味わうのだ。他人の不幸は蜜の味を実感させる、それに似た味がする背徳感。


図書室に行った時まだ周は来ていかなかった。一限の時間に起きてくるのはきついのだろう、どうせ元気に大きい声で挨拶してくる。


それまではいつも通り本を読めばいい。ゆっくりと頁を捲ればいい、紙の匂いを感じながら。


周は朝に図書室に来なかった。


また3限の空きコマにも、五限の空きコマにも来はしなかった。講義には来ていたはずなのに。


講義でも俺が目を向けるだけで、周は一瞥もくれない。よくよく考えたら周の横顔をじっくりと見るのは初めてだった。横顔では表情も分からない、何を考えているのかなんてなおさら。


目も合わせることもなく今日が終わるかと思っていた。心に隙間風が入るような寂しさを一息つける平穏と無意識に強がった自分に気づいた。


朝も周を待っていた。講義のチャイムのように来るのが当然とばかりに、図書館で周を待っていた。


騒がしさを感じる人たちはいつも日常になる前に離れていく。楽しくなさそう、ノリが悪い、バカにしていると一方的に絡んでいってすぐに去っていく。最後は背を向け笑われて。もうおもちゃを遊びきったと言わんばかりに気にされることもない。


いつのまにかそんなことにも慣れて、いつの間にか来るもの拒まず、去る者は追わずになっていた。


周は不思議だ。どっちつかずだった。俺に来るわけでもなく、俺から去っていくわけでもない。ただ、俺に付き添ってくれてるような感じがした。


澪と似て非なる俺との接し方だった。


だから俺は周に手を出した。


焦っていた。澪の好意に自分の好意が追いついている気がしなくて。自分の好意に自信が持てなかった。


どこか息苦しくなっていった。澪への言葉もプレゼントも全部が全部、不足しているとしか思えなくて。


別れを言い出すこともできなかった。


周にその解を求めてもダメだった。


違う、逆だ。


周と俺の関係のようにドライでどこか深くつながっている関係が心地良かった。セフレではなくそれ以外でも二人で楽しく過ごせる。けど途切れる時は途切れる。ドライなのに深い関係。


独りが俺を侵食していた時には麻薬だった。その快楽に飲まれてしまった。いつも人を狂わせるのは人だ。


澪と付き合った時だって、そうだった。





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