第22話

※悠斗視点


スプーンでコーンスープを掬い口に運ぶ。喉ではもう熱を失い体は温かくなっていかない。


「まだ、引きずってんのか?辛気臭いな」


一足遅れて食堂からお昼を取ってきた海が俺の向かいに座った。海はカツカレーにから揚げと毎度変わらずがっちりと食べるものだ。


いただきます、と海は大きな一口でカツとカレーを口に突っ込む。


「澪さんの幸せそうな顔を見れるだけで十分じゃん。元々俺らには高嶺の花だったろ」


澪は今日も元気に大学に来ていつも通り過ごしている。いつも通り優しく、明るく、平等に。


一日置いて考え、冷静さな戻ってきていた。別に澪は悪くはない。家に帰ればすぐ思考はその答えへのルートを辿っていった。元から一本だったかのように。


彼氏の存在なんて完全にプライベートなことだ。澪はそこにいるだけで影響力を持つし、自分の情報も一瞬で駆け巡る。誰が意図したわけじゃない、みんなの意思によって。


理屈はそうだよ。


俺がその立場になるなんてことはないけど、想像しただけで嫌になる。


感情が旋風つむじかぜみたいに荒れ狂う。


旋風で土埃や木の葉は舞い踊る。俺の体に小さな小さな傷ができていく。血とか出てこないけど。水にも沁みるし、チクチクと痛む。台風の前兆を指し示していたりして。


「聞いてっか?」


「俺さ、澪さんの彼氏を調査してようと思う!」


「おまえ頭おかしくなったか」


熱でもあんのか?と海がおでこに触るが弾き飛ばす。


「お前は澪さんがクズ男に取られていいのか!?こういう時のための澪様見守隊じゃないのかよ」


「なっ、ふざけんな。お前みたいに不純な気持ちでこっちはやってねぇよ!一回教え込んでやるよ。


まず、澪様は女神。我らは信者。笑顔もお話しも神の恵み。神の気まぐれ。


故に、信者が神の幸せを邪魔するわけないだろうがっ!」


「おめぇのほうが何言ってるか分からないわ!」


見開いた目を対称にする俺たち。


顎を上げて海のことを見下したまま、俺は手のひらを出した。


「どうせ、報告するために写真持ってんだろ。渡せよ。俺が探し当ててやる」


「敵わないんだからやっても無駄だと思うけどな」


海は俺の手の甲をスマホを操作し始めた。送られてきたのは澪と彼氏の写真。幸せホルモンが外まで出てそうな顔をして向かい合っていた。


フッと海は鼻で笑ってくる。


俺はコーンスープを一気に飲み干し、見事な手つきでから揚げを海から強奪。やっぱり肉が一番うまい。


「おい!」


空手野郎を置き去りにして俺は食堂から立ち去った。ちゃんとコーンスープの器を返して。

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