第16話
※周視点
誰かのためにご飯を作るのは久しぶりだ。とても貧相なご飯にはなりそうだけど。食材も全然ないし、玉ねぎは太陽に向かって伸びてるし。
怜がご飯を作れるとは微塵も思っていなかったから、冷蔵庫が空っぽの事態は避けられてよかった。
なければ、二人で買い物もできるけどまだちょっと怖いよね、あの女にバレるのが。
昨日は・・・気持ちよかった。人生で一番気持ちよかった。
下腹部をさすれば、耳の横で怜の声がしてくる。ゾクゾクと駆り立てられるのは興奮。部屋のオレンジ色の明かりは怜の肌の体温を思わせる。
目と目が合えば次は唇が合う。息継ぎの時間すら寂しくて跳ね返った体を私は腕で捕まえた。
幸せってものを抱きしめているような気がした。心に隙間なんて一寸もなくて溺れていくなんて何度思ったことか。
好きな人とのセックスが一番気持ちいい。怜の炎を受けるほど体全体が芯から温まっていくの。怜へこの熱が伝わってくれると嬉しいね。
炊飯器がご飯の準備を知らしてくれる。
快楽に浸っている時間は終わり。
部屋に入ったときから違和感はあった。夢に夢中で気にする余裕なんてなかったけど今なら分かる。
なにも掛ってない洗濯棒。綺麗に整頓されている食器。異様に少ない服。ほとんどないゴミ。
怜はここに住んでいない。
じゃあ、どこにって?私は分かった。
あの女と同棲でもしているんだろう。あの女はお金持ちだしね。ここより断然良いおうちなんだろう。
そう気付いたとき妙に玉ねぎを刻む音が空虚になった。重力に頼って包丁を動かす。怜の顔がほころぶことを期待して腕にまた力をこめる。
その服はあの女が選んだものなの?
この食器はあの女が手をつけた?
このグラスにあの女の口紅は残ってない?
全部、全部気になっていく。
怜の服を纏って、怜を常に感じるとあの女も顔を出す。この服は幸せの証なのにどうしてこうなるの?
ダンッと包丁を強く叩きつけても部屋に反響を残すだけ。
くるっとご飯を包み込んでオムライスの完成。一番真ん中に切れ目を入れてチキンライスが顔を出す。少し目に見えるけど。顔を出す。
ねぇ、怜?またキスをして。セックスした後のやさしいキス。
おでことおでこを合わせながら、対称に寝る前にしてくれたキス。
私の髪の横をかきわけて、じっと見つめあった後にキスしてくれた。
それだけ。今はそれだけで十分だから。
怜の長いまつ毛を眺めるだけじゃ足りない。
冷と心を交し合ってる証が欲しい。
怜の背中は温かいね。本によく集中できる。
この温かさを月曜まで持っていけたら私はどれほど幸せだっただろう。
どんな二人を見ても負けないと誓えた気がする。
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