第14話

※怜視点


目には怜に服を着た周、鼻には食欲をそそる匂いで怜の意識は覚醒した。蘇るのは暗くなった部屋でも分かる紅潮した周の顔。部屋が明るければ毛細血管の一本一本が見れそうなほどだった。


「食べ物なさすぎ。みそ汁も作れなかったよ。玉ねぎも芽がしっかり生きてたし。一応、オムライスは作ったけど」


食べる?とつやつや、すべすべの黄金に光るオムライスを見せてきた。


断る理由になどないので正直に頂くがとてもおいしい。ぺろりと完食できてしまう。あんな劇物を作るより普通に作ったほうが売れるような気がする。奇策なんてする必要ないほどおいしい。


今日は週末。大学もお休みで何をする予定もない。暇人だ。


周はというと怜の背中を座椅子にして本を読んでいた。料理の手間代らしい。これでこのオムライスが食べれるなら安いものだ。


周の重みと温かさが心地いい。周は体育座りをして、膝の上に本を乗せて読んでいる。


澪はなんて思うだろう。


怒り、悲しみ、呆れ。


どんな思いでどう行動するんだろう。


俺の頬に一発叩き込んでくるのか。嘆き悲しみその場に座り込むのか。その胸にまた一度俺を抱くのか。


澪の笑顔がもう見れなくなるのは残念だけどもう後戻りはできない。砂に書いた絵みたいに手のひらで簡単に消せはしないから。


「こっちに座って」


周を自分の胡坐の上に座らせた。香水の甘い香りと周の匂いが混ざった空気が鼻をくすぐる。周の腰に手を回して後ろから小説を眺める。図書室のいつもの体勢が逆になっている。


周は首と耳が弱かったなと少し焼けた肌ツヤのいい首を見て思い出した。澪の肌は白魚のような白さだったが、幽玄で病的とも思えた。


周の首を舐めてでもすれば、体は跳ねてこっちを睨んでくるだろう。真昼間どころかまだ午前中、始めるつもりなんてさらさらないが。


そういえば、まだ午前中。どこかに行こうと周が誘ってこないのは珍しい。会うたびにご飯、やらカラオケ、ボーリングに行こうと誘ってきていたのに。


見た目で判断してはいけないのは分かっていたが、じっとできないタイプの人間だと最初は思っていたのに、がらっと印象が変わっている。読書好きにもなったし。


家でのんびりする方が好きなのだから文句はない。


久しぶりに過ごす自分のお家。


一人みたいだけれど一人ではない不思議な感覚に包まれたながら、言葉を失ったように静かな、甘さが香る時間がゆっくりと流れていった。







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