第9話
※澪視点
あの後、澪と怜はいつも通りに帰り道を共にした。あの劇物はもう口にしないと二人で誓いながら。今日からまた怜と私だけの安寧の日々が始まっていくはずだ。あのビッチが諦めればの話だけれど。
「澪さん、どう?周さんに会えた?」
あ~この子いたな。ビッチこと周の情報を提供してくれた人だ。大学内で女子ぐらいの情報をしかなかったのによく見つけ出したたものだ。そこは理解はしている。
役にたってくれたし、この犬みたいに褒めてほめてオーラはかわいく思う。
ご飯くらいだろうか?怜に一人でご飯を食べてもらうのは申し訳ないけど恩返しなしというのはさすがに悪い。この子の性格からしたらないとだろうけどホテルやら二次会をきっぱりと断れば諦めてくれるかもだしね。 怜に連絡しとこう。
「うん、ほんとにありがとね。あんなに早く見つけてくれるなんてびっくりしたよ」
「俺にかかればどうってことないね。けっこうがんばったけど。よく話せた、えっと、周さんと?」
「うん、話し込んじゃった。昨日はおかげでいい日だったよ。あ、そうそうお礼にご飯おごるよ。私が連れていってあげる」
これが一緒の晩餐は最初で最後だね。その言葉は澪の口から出ることはなかった。
当の本人はウキウキしている。
最後の講義が終われば少し大学で喋れば、お店に着く頃にはいい時間帯になっている。ちょっと早めの夕飯だ。
食事と一緒にお酒も嗜みつつ、退屈な雑談に興じる。
「み、澪さんはサークルとかに入らないんですか」
「う~ん、入る気はないかなぁ」
「だったらうちのサークルに来ませんか?バドミントンなんですけど軽い運動になりますよ!」
「 む、私だってちゃんと体重とか気にして運動しているんだからね」
怜はめったなことで運動しないので澪が身体を心配してジョギングや筋トレに強制参加させている。怜は筋肉がつきにくいのか一切の変化はない。
「女の子はみんな裏で頑張ってるんだから」
ウブな悠斗くんはこれで何も言えなくなるでしょ。なんて返せばいいか分かんないもんね。
「・・・」
ほら・・・あれ?
悠斗は充電の切れた機械のように動かない。机の木目でも見ているのか顔を上げることもない。
そのまま体が右に傾いていき潰れた。右顔が潰れ唇もアヒルみたいに尖り、はっきり言ってブサイクだ。その口、ぶりっ子達を思い出すからやめてほしい。あいつらは表でも十分やばいけど裏はもっとやばいからな。
「おーい、てい」
身体を揺らしたり、冷えたグラスを当てても効果なし。
怜の所に帰りたくなってきた。
「これ、私が送らなきゃダメ?」
だるさと嫌気の纏った本音がついに出た。
ありがと~ございました~、特殊なイントネーションで感謝の言葉を述べたタクシー運転手に会釈をする。
悠斗を一瞬の持ち上げまた体制を立て直す。キッーキッー軋む階段を錆のついた手すりを頼りに上っていく。免許証から住所を入手し、部屋の番号は寝ぼけてても答えてくれた。防犯意識の高い二階に住んでてて偉いけどエレベーターとエスカレーターとかないんですか?
悠斗のバッグをあさって、ドアの鍵を開ける。悠斗を放り出し自分も手をついて休む。悠斗は殺されたみたいに突っ伏してる。
普通は逆だ。送り狼なんて言葉もあるのに。
男の大学生の一人暮らしにしては綺麗な部屋を悠斗は澪に引きずられてベッドに寝ることになった。
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