第7話
※澪視点
「ゲホッ、ゲホッ、み、水。・・・ゲホッ」
「怜、毒でも飲まされたの?」
澪がそう聞いても、怜は下を向いて咳をするだけで返答することはできなかった。怜の咳が止まるときは水を飲んでいる時だけだ。
原因は怜の前に置いてある物だ。赤、いや真紅と言ってもいいほど赤に染められている。見方を変えれば確かに毒でも合っている。
澪の想像している状況よりははるかにマシだった。
二人きりなんて当たり前。わざとらしいボディタッチで誘惑、果てには逆に周防は怜を襲うことまで考えていた。
それが女子大生三人、怜一人で食事会なんてとても健全的に見えた。図書館と別棟だったため少々急いできたがその必要も一切なかった。
「毒を飲ませるなんてひどいの?」
わざとらしく寸劇のようにセリフを吐く。あくまで冗談っぽくだ。怜に醜い女のマウント合戦やらなんやらを見せるつもりはない。
「まだ辛さレベル3なのに、ダウンするなんて思わなかったんだって」
周は真っ赤な粘性を強く持った液体から麺を釣り上げを口に運ぶ。麺をすすり、笑って顔を上げる姿を見るに本当においしいと感じているのだろう。怜はも器を見つめるだけで箸を持つ様子はない。ギブアップみたい。
涙目の怜もかわいい。元々感情表現の少ない怜は慣れれば小さく顔で感情を表すしているのが分かる。目じりも下がっているし口も少し結ばれている。
怜の使った箸を借りて麺を掬いあげる。麺から赤い液体が流れ落ちていく。何度嗅いだか分からない、鼻を刺激する香辛料。
口へ運び、外国人みたいに噛み切って食べる。すすって食べるのはまだ怖かった。
周、器、周、器と二重の二度身をすると変化は口以外にも襲ってきた。
ロウリュウを全身で受けているかのように体が熱くなっていく。季節がひとつ戻り夏になったみたいだった。辛味と痛みは同じなんだっけ、と自分の体で行う答え合わせは思ったよりもつらかった。
これを作った張本人の名前も知らない家庭科サークルのメンバーの差し出してきた水を受け取りあおる。ジンジンと舌をなぶる感覚は水を飲んだだけでは消えなかった。 二口目に行くなんて考えられない。
「・・・辛い」
そんな言葉しか絞り出せなかった。
「ギブアップ?」
麺をすすりながら、目だけこっち向けてくる周は本当においしそうに食べる。ケロッとしている周は絶妙に気に障る。わざとなのか、天然なのか見分けもつかない。
レベル3で一口でギブアップ。“まだ“とは何レベルまであるのか。澪は衝撃に包まれた。
澪は思わぬところでビッチの強さを知った。
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※周視点
澪と二人きりで廊下を歩く。他には誰もいない。元々棟の端の端。用がある人も少ない、ここに来るのは大学を探検しようとする物好きぐらい。
無言でも気まずいとかを気にしている場合じゃない。いつでもナイフが飛んでくる準備ぐらいはしないと一瞬でつぶされる。それが女の恋の戦争だ。
「ねぇ周さん、彼氏さんは大丈夫なの?」
ほら、来た。
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