第5話
成績も期待されているだろうし、その期待に澪は見事に応えている。それは紙面だけではなく講義中も同じだ。
意外だった。いい意味のほうの意外だ。そういうお堅いお嬢様ではない姿を見ると親近感と似た安心を覚える。
「少し気になることがあってね。見つかんなかったし講義も全然聞けなかったよ~もう」
「ノートぐらいは見せれるけど見る?あ、字に文句はなしだからな。男子だしきれいには書けないから」
「男子でもきれいに書く子は書くし、女子にプレッシャー掛けないでくれる?男女差別だ、男・女・差・別!はんたーい!まぁ、私の字はきれいだけどね。字の解読も得意だから任せな」
魅惑の胸のふくらみが強調される。目が釘付けになりそうなのを必死で引っ込める。話せるようになってきたのも最近。できるだけ好感度を下げるのは避けていきたい。
眼鏡をくいっと上げる仕草して微笑んでくる。どんなファッションでも君は似合いうんだろう。
「俺の字は草書か何かと思ってんのか?」
「はは、ごめんじゃあ先行くね。ありがと」
黄色い紅葉を思わせる色で彩られたスカートは風をはらみ、澪の気配を残すかの日ひらひらと揺らめていった。
脈を音鳴らす心臓に、汗で湿った手をこする。
やっぱり好きだ。自分の出自を露にも感じさせない陽気な態度。ありとあらゆるものが凡庸な俺にも変わらない。
噂で聞いたストーカーの話も疑問には思わない、むしろ一人ぐらいいた方が納得するぐらいだ。澪さんの笑顔はチョコレートみたいだ。また一つまた一ついつの間にか手が出てる。不純物なんて入っていないチョコレート。
手を強く握りこみ、カバンを肩にかけて悠斗は講義室を出て行った。
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※澪視点
悠斗の肩をつんつんと指先でつつく。思ったより硬い感触を受けがっちりしているだと感心する。鍛えてでもいたりするのかしら。
怜は筋肉もついていないが脂肪もついていない痩せた体をしているからバイトとサークルで鍛えられた悠斗の体を触るのは新鮮だった。
今度からジョギングとかに誘ってみようかな。そういえば怜は自発的に外に出ることはほとんどない。お腹が減ればご飯の食べる量も増えるかもしれない。怜は小食すぎる。怜は私の頭に顎を乗せられるくらいの身長差があるのにご飯の量が私と変わらない。
「これ、ありがとね」
「おう、毎度あり。そういえばなんでスマホ見てたの?」
昨日の今日でまだ周は見つかっていなかった。ビッチの心をへし折ることとは言えるわけがない。
「人捜しをしてるの。図書室で会ったんだけど名前を聞き損ねて。また会いたいからSNSで繋がっておきたくて」
「そういうこと。それならちょっとは協力できるかも!これでも友達は多いもんで。写真とかある?」
「ない」
「学部は?」
「わかんない」
「・・・似顔絵でも描く?」
「・・・」
さすがに情報が足りないみたい。あと、似顔絵を全女子が描けると思ったら大間違いですからね。私が描いたら怪物か妖怪が生まれてくる自信があります。
ビッチと遭遇したのは完全なイレギュラー。どこかで講義を休んでたたきつぶしに行こうか。
最低限の情報だけ交換してあとは悠斗に任せて澪は講義に集中した。
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