第3話

※周視点


「なぁ~なんでそんなにご飯--


「怜」


直感で分かった。こいつがいるからだと。


衝撃で少し我を失っていたが怜の彼女はこの大学内では有名人だった。


その圧倒的な美貌。腰にも届きそうな艶のある黒髪、身長は高く出るとこは出ているスタイルのいい体。体の比率がおかしいだろと突っ込みたくたる高い腰。私でもすこしうらやましい。


カーテンみたいな人。落ち着いていて凛とした空気を纏う、けれど触れれば柔らかく包み込む。


怜と並べば誰もが見惚れ、認める美男美女カップルだ。二人の並んだ姿は優美な絵になる。


怜との会話も微笑が混ざり、二人の端正な顔がすこしほぐれる。和やかに進んでいる。二人にとって今の私はただの傍観者で無価値な存在になり話は弾む。


ちらっと無機質な墨汁を垂らした吸い込まれる黒い眼に感じる敵意。その眼の奥で私を鼻で笑っている。


ふ~ん、そういうこと。


頬杖をついて私は二人のお望み通り黒子に徹した。


私みたいな所謂陽の者のほうが場の空気とか感情を読むのが得意だったらするんだ

特に女子はね。今の私に万の一つも勝ち目はない。これは女として分かってる。ここで空気を読むのが大人の女ってわけよ。


「周さん、じゃあね。課題がんばって」


「私だったらちょちょいのちょうよ。じゃあ、また」


私が手をひらひらと振いる間に二人は図書室から姿を消していった。


私にピントを合わせてくれた挨拶で今日は十分だった。火の粉舞っていた心はスッと軽くなる。認識される立場になっていた。有象無象では決しない。


はぁ、とため息を吐く。


この場所は私にとっては聖域だった。心が一番落ち着くとこ。怜に彼女がいたってよかった。あの場所が聖域であることに変わらなければ。多分もう無理だろうけど。女の嫉妬は同性でもびっくりするぐらい怖いんだから。


私の聖域に必要なのは『れい』。ただ君だけ。


照準は合った、敵も発見した、自分の位置も把握した。


一発逆転、暗殺ゲームのスタートだ。






:::::




※澪視点




いつもは黒板とノートを往復するだけの講義のはずだが、澪の視点は前の空席を見つめている。


澪の心中は荒波のように毛が逆立っている。


怜の近くにあんなビッチがいるなんて。私が講義でいなかった時に仲を深めていたなんて。肌寒くなってきたこの頃にあんな二の腕と谷間丸出しの服を着て、感覚おかしいじゃない。


シャーペンを子供みたいな持ち方をしてノートが真っ黒に塗りつぶされていく。イライラをぶつけても心に上がってくるのは怜への不安。


もしかしたら今、この瞬間にあの女と怜が話していたら、ポキッとシャーペンの芯が折れる。


まずは落ち着かなきゃ。どうにかしてあの女を怜から引き離す。


・・・怜にキスマでもつけてみようかしら。あの白魚みたいな肌に赤いキスマを一つ。これは私の所有物だって示すのも悪くないわ。怜がどんな反応をするかしら。恥かしがってる姿は見てみたいわ。


後は、怜に告白して玉砕させようかしら。怜は私しか見えてないから大丈夫。それにあの女の絶望する顔が見たいわ。けど、あのタイプは振られてもまだ友達のふりをしそうだから駄目ね。


・・・大学自体に来れないようにするのもいいかも。例えば、悪評を流すとか。ビッチ、だとか乱交しただとか、・・・見た目通りすぎるかしら。意外性も何もなくて少しつまらないかしら。


油断はしない。怜を守るのに一分の隙も見せるわけにはいかない。


塗りつぶされた黒は銀色に三日月の艶を放っていた。


とりあえず、あの女について調べましょう。


情報収集は基本中の基本。


今は便利な時代ですから。バエスタにスイッター。この大学について調べがついていて顔がわかるなら今日中に名前までぐらいはわかるでしょ。


澪の指は上へ上へと講義中常にスマホをなぞっていった。

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