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「う……」


 突然、ユウトがこめかみを右手で押さえた。そしてそのまま両膝を床に付けてうなだれる。


「どうしたの?」


「わからない……けど、なんか、クラクラするんだ……」


 そう言うユウトの顔は真っ青に変わっていた。心なしか呼吸も荒くなっている。


 そうか……やっぱり、急に体が大きくなった負担が、彼に押し寄せているんだ……


「ごめん。元の世界に帰りな、ユウト」


 あたしは言ってしまった。


「やっぱあんたがこの世界に居続けるのは無理があるんだよ。ほら、その鏡台から自分の世界に戻りなよ。肩、貸してやるから」


「……ありがとう」


 あたしは彼の右手を自分の肩に回して立ち上がる。彼の重み、ぬくもりが伝わる。


 本当はもっと一緒にいたかった。だけど、文字通り、あたしと彼は住む世界が違うんだ……この気持ち、絶対に言えない……


「ね、あおい……」と、ユウト。


「無理して喋らなくていいよ」


「ううん。これだけは言わせて」


「なんだ?」


「僕、きっとまた、会いに来るからさ……絶対に……だから、その時は……」


 嬉しかった。彼もあたしと同じ気持ちだったんだ……


「分かった。期待しないで待ってるから」


「……ありがとう」


 ユウトはそう言って、笑った。あたしは泣きそうだった。


「ほら、鏡台だ。じゃあな」


「うん。ありがとう……それじゃ、またね」


「ああ、またな」


 這うようにして、ユウトは鏡台の向こうに消えていった。


 だけど、それっきり、ユウトはあたしの想像にも現れなくなってしまった。

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