5


「ユウト、今からそっちに鏡を送るから、それに飛び込んでみて」


『ええっ? 何それ?』


「上手くいけば、あんたをこのリアルワールドに召喚できるかも」


『マジで!?』


 「ユウト」の目がまん丸になる。


「ようし。それじゃ早速やるよ」


 あたしは部屋の鏡台を凝視して、それを脳裏に想像する。


『すごい……本当に来たよ!』


 「ユウト」の方に振り向くと、いつの間にか「彼」の隣に鏡台が置かれていた。


『それじゃ、行くね』


「ユウト」が(イマジナリーな)鏡台に飛び込むと……


 突然、あたしの部屋の鏡台から、何かが飛び出してきた。


「やった!」


 成功だ。


 それはまさに、「ユウト」だった。しかも、完全な実体感を備えている。


 だけど……


 こいつ……さっきより、背、伸びてないか?


 しかも……なんか、体つきも一回り大きくなったような……


「うわ、何これ!」


 ユウトの、実体化して最初の言葉がそれだった。


「僕、なんかものすごいマッチョになってんだけど……げっ!」


 彼のワイシャツのボタンが一気に吹っ飛んだ。はだけた部分から、分厚い胸板とシックスパックが……


 ヤバい。


 あたし、実は筋肉フェチなんだよね……

 

--- 


「うう……なんでこんなことに……」


 ユウトは泣きそうな顔になっている。しかし……ものすごいマッチョな体でそんな顔をされると……ギャップに……キュン死してしまいそう……


 いかんいかん。状況を冷静に分析しなければ。


「たぶん、今のあんたは絶対値の二乗の状態だからさ、そりゃ体も大きくなるよ」


「よくわかんないけど、そういうことなんだね」


 あまり納得してないようだが、それでもユウトはうなずいた。


「よし、それじゃ、さっそくモデルになってくれ。できれば……上半身は裸になってもらえるとありがたい」


 言いながらあたしはさっそくスケブ(スケッチブック)を取り出す。


「え……脱ぐの?」


 ユウトは少し顔をしかめた。


「別に……嫌ならいいけど」


「……わかった。上は脱ぐよ。だけど下は……いいよね?」


「いいよ。さすがにそこまでは要求しない」


 ほんとは下も見てみたい、という気持ちも……無くはない、けど……さすがにまずいよな……


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