3

 あたしが帰宅し自分の部屋に戻っても、相変わらずあたしには「ユウト」が見えていた。


「あんたさあ、何で今さら出てくんのよ」


 あたしが「ユウト」に問いかけると、「彼」はキョトンとした顔つきになる。


『え、あおいが僕を呼んだんじゃないの?』


 ……へ?


「べ、別に……あたしは……あんたなんか呼んだ覚えないんだけど……」


 なんだかツンデレぽくなってしまった。


『でもさ……あおい、なんだか、辛そうだよ』


「!」


 思わずあたしは「ユウト」を見つめ返す。


『あおいはさ、なんか辛いこととか悲しいことがあると、いつも僕を呼んだよね。で、いつも僕が慰めてた。覚えてる?』


 ……覚えてるよ。そうか……そういうことか……


 新人賞落選がかなりショックだったんだ。そりゃそうだ。最高傑作って思ってた作品が、箸にも棒にもかからなかったんだもんな……


『ねえ、あおい。何が辛いの? 僕で良かったら、話、聴くけど……』


---


『でもさ、すごいよ、あおい』


 あたしの話を聴き終わると、「ユウト」はそう言いながら微笑む。


「何がだよ? あたしは落選したんだぞ? 何にもすごくなんかねえよ」


『だって、将来マンガ家になりたいんだろ? そのためにずっとマンガ描き続けてきたんだろ? 僕にはそういうはっきりした夢はないからさ。目標に向かって真っ直ぐ突き進んでいる姿を見ると……やっぱすごいと思う』


「結果が出てればな」あたしは吐き捨てるように言う。「しかも今回で応募したの3度目なんだ。最高傑作だった、って手応えがあったのに……ダメだったんだ……」


『ねえ、あおい』


「なに?」


『そのマンガ、僕に見せてくれる?』


「え、ええ?」


---

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