第二話 旅立つ準備

『魔法族の区別について』が次の話題らしい。魔法族って何……?

「いかにも『魔法族って何?』って顔してるな、あおい。そう心配しなくても全部説明するから安心しろ」

 心を読んだようにジグがそう言ったから、少し驚いてしまった。ぼくは、何を考えているか分からないとよく言われる。だから余計に。

「魔法族とは、いわゆる魔法世界に住んでいる生物の総称だ。そして、魔法族は三つに分類できる」

「あ! 雛分かるよ! 魔人と魔物と魔獣でしょ!」

 元気に手を挙げた雛さんが、自信満々にそう言った。

「正解だ。魔人は見た目が人間のような形をしていて、言葉も話す。日本語も通じるぞ」

「不思議だよね〜。世界が違うのに言語は同じなんて」

 遥さんがそう言ったのに補足するように、ジグが続ける。

「まあ、魔法世界の文化は日本譲りだからな」

「なんで?」

「地球と魔法世界は空間の歪みで繋がっているんだが、何故かその多くが日本に集まっているんだ。だから、昔からよく交流があったそうだ。今となってはこの有様だが」

 ジグは体を宙に浮かせたまま、くるりと窓の方を向いた。窓の外に広がる景色は、ビルが立ち並び人々が行き交う都市ものである。

「……次は、魔物だな。人間や魔人と同じ言葉を話すが、見た目が人間とは異なる分類だ。妖精やドラゴンなどがいる」

「ジグもそうでしょ?」

 奏さんがそう聞くと、なぜかふいっと顔を背けてしまった。魔物って分類が嫌なのかな?

「次、魔獣。見た目は動物的であることが多く、決まった言語を持たない。ペットや相棒として連れられていることもよくある」

 架空のものを説明されているようで、いまいち頭に入らない。それでも話は進んでいくから、聞き漏らさないように集中。

「魔法族についてはこんなもんだ。あとは注意点の確認だな」

 ジグの大きなしっぽが動く。何となく目で追っていると、体の下で丸い形を作って座布団のようにし、その上に座った。なんと器用な。

「魔法世界では、人間は捕食の対象だ。普通にしていれば人間と魔法族の区別はつかないが、実際には一部明白な違いがある。あおい、それが何かわかるか?」

「えっと、血の色?」

「正解だ。魔法族の血の色は青色だ。人間は赤。この違いで一瞬で人間だとばれるぞ」

 一ヶ月ほど前、エネミーが地球を襲い、人間はそれに対抗した。その時から、エネミーは青い血を流すと知ってはいたが、やはり不思議なものだ。生き物が青い血を流すなんて。

「まあそういうことだから、血が出るような怪我には十分注意すること。あとは、考え方の差異などで疑われる可能性もあるから、言動にはできるだけ気をつけろ」

「うん……!」

「以上だ。各々準備を進めてくれ。質問があればなんでも聞くぞ」

 他のメンバーはそれぞれ保健室から出ていった。魔法の練習をしたり、持っていくものをまとめたりするのだろう。ぼくはというとまだ保健室に残り、明日からどのように行動すればいいのか考えていた。

「あおい」

 前から名前を呼ばれたのでそちらを向く。そこには先程までと全く表情が変わらないジグがいる。

「不安か? それとも、自分が邪魔になるんじゃないかとか思っているのか?」

「え……、うん。どっちも」

 ジグはぼくの前で魔法を使ったことがない(もしかしたら知らないうちに使っているのかもしれないけど)。だから今みたいに、考えていることがジグに筒抜けになっているとき、驚いてしまう。前に一度「どうして分かるの?」と聞いたことがあるが、ジグは魔法は使っていないと答えた。

「あおいは不必要なんかじゃない。むしろ、謎を解くための一番の手がかりだ。その自覚を常に持っていろ」

「うん……」

 一度目を知らないのはぼくだけ。でも、一度目で最後まで生きていたのはぼくだという。ぼくがもし一度目のことを思い出せば、時間が戻った謎を解くことができるのかもしれない。ぼくが持つふたつのリングの謎も。

「……よしっ!」

「おう、その意気だ」

 気合いを入れ直す。ここでぐるぐる悩んでも目指す先は結局変わらないのだから。

 明日になったら、地球とはお別れ。次に帰ってくるときは、きっと元の日常に戻っているはず。……いや、絶対!


 明日、ぼくたちは魔法世界へ行く。みんなにとっては二度目の、記憶が無いぼくにとっては初めてと言ってもよい、魔法の世界へ。

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