中篇
父さんの転勤が決まった。これで三回目の引っ越しになる。夏休みのうちに移動するので急いで準備をしないといけなかった。あっという間に家はダンボールだらけになって、遊ぶものもなくなってしまった。
それに学校にも挨拶に行った。夏休みの校舎は全く人気がなくて不思議な感じだ。でも、先生はいて、職員室はあまり普段と変わらない。
「転校の挨拶に来ました」
「津山君、元気? 大丈夫?」担任の松藤先生がやってくる。「お母さんもお疲れ様です」
「引っ越しは何回かやってるから慣れてる。転校は初めてだけど」
「こちらこそ急で申し訳ありません、夏休みなのに」
「いえいえ、急で大変ですね」
「いつもこんな感じですから……」
部屋の端にあるソファに座って、持って帰らないといけないものや書類を受け取る。それに職員室にいたお世話になった先生と記念写真を撮った。
「ああ、そうだ」先生がこちらを向いて言う。「待っている人がいるから、早く教室に行きなさい」
「誰がいるんですか?」
「ひみつ、行ってみて」
僕も母さんもきょとんとしていると急かされた。
「時間もないって言ってたから、はやく」
その声に押されて職員室を飛び出す。教室は四階。駆け上がる階段の窓から強い西日が差し込み、その明るさに目が眩んだ。もうこんな時間になっているとは思わなかった。
今まで通った教室にたどり着く。ドアをゆっくりと開けると、前から二番目、窓側、僕の左隣の席で君はいた。窓からの風でトレードマークの長い髪が揺れている。
「来たんや。いるってよく分かったね」君は振り向いてそう言った。
「先生が教室にいるって」
「言ってくれたんだ」
「うん……××××、×××××」その言葉がちゃんと伝わったかは分からない。
強い風が入ってきてカーテンが舞って君の姿を隠す。ただ、一瞬見えた表情は×××いた。
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