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「はいこれ。夜食にするから、って、母さんに作ってもらった」


「おー! 腹減ってたんだ! ユウトありがとー!」


 そう言って、あおいはニコニコ顔で僕が差し出したおにぎりにパクつく。


「……で、お前さ、今日はこれからどうすんの?」


 それは、僕にとって目下の大問題だった。


「ひまっへるはろ」


 ……食べるか喋るかどちらかにしてくれ。


 ほっぺたにご飯粒を付けたまま、あおいはゴクンとおにぎりを飲み込んでから繰り返す。


「決まってるだろ。ここに泊めてもらうよ。リアルワールドじゃあたしの居場所はないんだからさ」


「あのな」僕は頭を抱える。「僕は男で、お前は女だよな。そして、僕らはもう子供じゃない。意味分かるよな」


 そこで僕はようやく気づく。


 こいつ、背、伸びてないか?


 しかも、胸も大きくなってるし……腰回りも脚も……えらく太くなったような……


 少なくとも、昼間学校にくっついて来たときは、もうちょっとスレンダーだったと思うんだが……今は随分グラマーな体付きになっている。着ている制服もかなりパツパツだ。だけど贅肉が余っている、という感じはないし、くびれるところはちゃんとくびれている。


「どこ見てんのさ」


 あおいがジットリとした目で僕を見ていた。


「ご、ごめん!」


 僕はあわてて視線を逸らす。


「確かに子供じゃそんな目であたしを見たりはしないよな。ま、ユウトもそういう年になった、ってことか……昔はかわいかったのになあ」

 

 そりゃお互い様だろ。


「言っとくけど、今のあたしは二乗されてる存在だってこと、忘れんなよ。だからこんなデブになっちまったんだ」


「……え?」


 いや、決してデブでは……ないと思うが……


「と言っても、サイズの変化は対数ログになるみたいで、せいぜい2倍程度で収まってるけどさ」


 ログって何だ? いや、それよりも……


「ってことは、体重とかも2倍に……」


 僕がそう言った瞬間。


「!」


 目にも止まらぬ速さで何かが目の前に飛んできた。しかし僕の顔に叩き付けられたのは、それが巻き起こした旋風だけだった。それは僕の目の前1センチほどでピタリと静止していた。


「それ以上言うんじゃねえ」


 右の拳を僕の顔の前で寸止めさせたまま、あおいが低い声で言う。


 鋭い視線。凄まじい殺気。僕の顔に冷や汗が流れる。


「今のあたしは、体力も2倍くらいになってる。おそらくあんたはかなわないよ。だから、あたしにムラムラして襲ってきてもいいけどさ、その時は命も覚悟しとけ、ってことだな。とっさに反応したらあたしも全く手加減出来ないからさ」


「わ……分かった。僕も命は惜しいからね」


「いい子だ」あおいはニヤリとする。「よし、それじゃ、ちょっと付き合え」


「え、何に?」


「買物に行くんだよ。いきなりこんな体型になっちまったもんだから、インナーがきつくてさ。大きいサイズのを買いたいんだが、土地勘もないし女一人で夜道は危ないから、あんたも一緒に来な」


「いや、お前、2倍の体力で無敵モードなんだろ? ボディガードなんかいるか?」


「言っただろ? 危ないのはあたしじゃなくて、あたしを襲ってくるヤツの方なんだよ。でもあんたが一緒なら、ある程度は抑止力になるからな。無用の殺生が避けられる」


 あ……そういうこと……てか、今、さらっとすごく怖いこと言ってないか……?


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