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結局、「あおい」は僕に付いてきた……いや、憑いてきたというべきか? とにかく「彼女」は僕の高校にやってきた。教室の自分の席で授業を受けている僕の、斜め上の空間に浮かんでいるのに、誰もそれに気づかない。
『複素数か……あたしの学校じゃもっと前にやってたけどね』
……どうやらこんな「あやかし」の類いも学校に行ってるらしい。
いや、そもそも、こいつは本当に「あやかし」の類いなのか?
一応、僕の中では「あおい」はイマジナリー・フレンドということで結論が出たはずだ。そして、イマジナリー・フレンドは文字通り想像の産物でしかない。ということは、こいつは僕の脳が産みだした幻覚、ということになる。だから、他の人には見えないのも当たり前だ。
しかし、それにしては……随分存在感があるな。こういうリアルな幻覚を見るってことは……もしかして、僕、統合失調症ってヤツになっちまったのか?
なぜ?
心当たりがあるとすれば……そうだ、確かに、僕には最近一つ精神的にショックな出来事があった。
僕が密かに思いを寄せていた、同じクラスの
なんであんな、これと言って特徴のない、どこにでもいるようなヤツと付き合ってるんだ……と言いたいところだけど、特徴がないことで言えば僕も似たようなものだ。そして、瀬川さんは僕を選ばず、平良を選んだ。
当然か。僕はただ、いいな、と思って彼女を見つめていただけだ。彼女と話をしたこともほとんどない。ましてや告白なんて……
でも、平良は多分、何か行動を起こしたんだ。告白もしたんだろうな。僕よりも勇気があったんだ。やっぱ、負けた……ってことだよな……
とにかくそれ以来、僕は少し落ち込んでいる……けど……
これ、統合失調症になるほどショックだったのか?
自分ではそんな自覚がないんだが……
だけど、精神科に行って、見てもらった方がいいのかな……
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『そんなことはないよ』
帰宅して僕が自分の部屋に戻っても、「あおい」は相変わらず僕に憑いて……もとい、付いてきた。そして、僕が「精神科に行って診てもらうよ。統合失調症かもしれないから」と言うと、彼女はそう応えて首を横に振ったのだ。
「え?」
『大人になってもイマジナリー・フレンドが見える人だって普通にいるんだ。そして、そういう場合でも生活に支障を来さなければ、特に問題はない、ってことになってる。ネットで調べてみなよ』
「そうなのか……」
さっそくスマホで調べてみると……「彼女」の言うとおりだった。僕は少し気が楽になった……けど、イマジナリー・フレンドって、ここまではっきりした存在なのか? それに、僕の想像の産物のはずなのに僕の知らないことまで知ってるなんて……
『ほら、言ったとおりだろ? でもな、あたしはあんたの単なる想像の産物じゃない。今はイマジナリーだけど、リアルな存在にだってなれるんだからな』
にわかには信じがたい話だった。
「ウソだろ? どうやって?」
『あのさ、今日、数学で複素平面習ったな?』
「ああ」
『複素数は実部と虚部があるだろ? 実部は英語でリアル・パート。そして、虚部は……英語でなんて言うか、知ってるか?』
「ええと……確か……ああっ!」
僕は愕然とする。
『そう。イマジナリー・パート、って言うのさ』
「あおい」は、ニヤリ、と笑った。
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