第3話 非常に突然に(お題『3時』)

午後3時20分。

 彼女は彼を待っている。頼んでいたカフェオレは、ほぼ飲み終わっている。もう、3時って約束だったじゃない。いつもこうなんだから。彼女は苛ついている。


 午後1時50分。

 彼は彼女に電話する。一回目出ない。二回目出ない。三回目でようやく出てくれる。しつこい、と怒鳴られる。やはり、昨日のことをひどく怒っている。

 あれは、売り言葉に買い言葉だったんだ、本気じゃない、ごめん、と彼は謝り、今から会えないか?と伝える。押し問答の末、いつもの店で3時に、と約束する。


 午後2時。

 彼は地下鉄の駅に向かう。何か手土産があった方がいいかな、と考え、ふと思いつく。そうだ、欲しがっていたストールがあったっけ。確か駅ビルに同じものがあった。待ち合わせ場所は隣の駅前だから、十分時間はある。

 

 午後2時30分。

 彼は買い物を済ませて駅に向かう。電車が中々来ない。おかしいな、と思っていると、構内にアナウンスが流れる。"○○駅で発生した事故のため、現在運転を見合わせております。"

 何だって!!


 午後2時40分。

 依然として電車は動かない。彼は諦めて地上に出る。タクシーで行くことにするが、乗り場は長蛇の列だ。全く、何でこんな時に。


 午後2時50分。

 意外とスムースに順番が来る。タクシーに乗り込み、隣の駅までと指示する。また、間に合わないだろうな、とため息をつく。怒るだろうな、でも、待っていてくれ。


 午後3時。

 彼女は窓際の席で待っている。彼はまだ来ない。注文を聞きに来たので、仕方なくカフェオレを頼む。


         ******


 午後3時30分。

 彼女はスマホを見る。あれきり、何の連絡もない。

 嘘つき、やっぱり来ないじゃない。そろそろ帰ろうか、と思い、ふと顔を上げると店内のモニターが目に入る。何気なく見ると、画面下にテロップが流れている。"○○線、運転再開" 何だ、電車止まってたんだ。

 続けてもう一つテロップが流れる。少し先で車を数台巻き込む大きな事故があったらしい。トラックとタクシーが炎上。あら、やだ。怖い。

 

 もう少しだけ待ってみようか、と彼女は思う。そう、後10分くらいなら。

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