第11話 サビレーの約束

「アリ、ストークラットゥ」

 巨大なアリのような魔物が倒れた。名はアリストクラットゥ。

 パンチで倒したのは、巨大なロボット。

「いけるよ」

「みんな、いくぞ!」

「おう」

承知しょうち

 ヴァルコイネンのロボット、タイヴァスが技を放つ。

「タイヴァスショット!」

 胸から放たれた光弾が、アリストクラットゥに命中。かがやきが大きくなる。

「うがーっ」

 巨大な魔物が爆発した。

「ちっ。使えないやつだ」

 ちょっかいを出していたブラックが飛び去っていく。


「すごーい」

「さわらせてー」

「ダメだ」

 すでに、クライダルの姿はない。

 ザパンの町の近くに巨大な獣がいると、とにかく目立つ。

「見ちゃいけません」

「なんでー」

「じゃあ、またな」

 ルーフスたちは、山の上にあるビューイの町近くに獣を隠すことにした。

 目的地へと向かう一行。

 ビューイの町は亜人たちが多く住む。

 楽観的なルーフスが先陣を切った。

「というわけで、この近くに置いてほしいと――」

「ダメだ」

「お願いします」

「お願いされても、困るよ、君」

「そこをなんとか」

「ダメなものは、ダメだ」

 説得するも、なかなか聞き入れられない。


 巨大な要塞の中。

「いま、なんと言った?」

「ワレを巨大化していただきたい」

 ひざをついた魔族。その瞳には一点の曇りもない。

 みずから巨大化を申し出たのは、熊の意匠をもつ男。サビレー。忠義に厚いその身からは、迷いが感じられない。

 イモっぽい魔物からは迷いしか感じられない。

「ちょ、ちょっ。どうなっちゃうんですか?」

「何を言ってるのよ。やめさせて」

 メゲが反対するも、意味がない。

「最後まで見届けるのが、ワシらの役目」

 ベコムが目を閉じる。

「よかろう。だが、無事に帰ってくるのだぞ」

「はっ!」

 クライダルの命令に、サビレーが応じる。

 立ち上がったリーダーが歩くのを待つ幹部。うやうやしく後を追い、目的の場所で立ち止まる。

 転移陣へと乗った者が移動していく。要塞の俯瞰ふかん。そこは空中だった。

 移動先は、街にほど近い林。

「ゆくぞ」

御意ぎょい

 闇のオーラが込められる。熊の意匠をもつ男が黒いもやに包まれ、ふくらんでいく。

 分け与えていた力をすべて戻したことで、クライダル本来の力、巨大化能力が使えるようになったのだ。

 ビューイの町の近くに、巨大化したサビレーが現れた。

「サビレー?」

「迷っている暇はないでござる」

装備そうび!」

 ヴァルコイネンが獣に乗り込んで迎え撃つ。サビレーも戦う準備はできている。

「さあ、来い!」

「いくぞ。合体だ!」

 獣が変形していく。宙に浮きながら。

 そこを、サビレーは狙わなかった。

「ヴァルコイネン……」

 じっと待っていた。

 アカは胴へと。ミドリが右脚に。イエローが左脚。アオが右腕。シアンが左腕で。マゼンタがバックパック。

 合体し、胸の操縦席が広がった。一瞬でそこへ移動する、ルーフス以外の全員。

「完成! タイヴァス!」

 6体合体、タイヴァス。巨大な人型のロボットだ。

「タイヴァスめ。ワレが、サビレーが相手をしてやる!」

 グローブとシューズに力を入れ、巨大な魔族が構えた。

 異質な鳴き声。

 どこからともなく、黒い巨大な鷲がやってきた。

「サビレー、手を貸してやる」

「ズワルトゥ!」

「いいかげん、あきらめろ」

「嫌われるわよ」

 サビレーが叫ぶ。

「邪魔をするな!」

「ふん。勝手にやらせてもらうだけだ」

 パンチ同士がぶつかり、キック同士もぶつかる。そこを、鷲の射撃が狙っていた。

 地上にサビレー。空にはブラック。

 サビレーの相手をしていると、ブラックの攻撃を受ける。

 かといってブラックの相手をしていると、サビレーの的になる。

「どうしろってんだ」

「まずは、サビレーから」

 ベルデが言って、そのとおりにしなかった。スカーフでの通信がズワルトゥに筒抜けだからだ。

 ブラックが降下するのを待って、カウンターを決めた。

「なんだと」

「どこを見ている!」

 隙を見せたタイヴァスを、サビレーは逃さない。蹴りを食らい、カラフルな巨人は山の近くまで吹き飛んだ。

「ぐうっ」

 追撃を受ければ、山の上の町が危ない。

「させるか!」

 パンチを受け止め、街への攻撃を防ぐタイヴァス。渾身の力で、サビレーを押し返した。

 やはり、その瞬間をズワルトゥは見逃さない。しかし。

「なにっ」

 紙一重かみひとえの動きで黒い鳥の攻撃をよける巨人。

「タイヴァスショット!」

 ブラックが通りすぎた一瞬の隙を突いて、サビレーに光の弾を放った。

「申し訳ありません。クライダル様」

 サビレーのいる場所が爆発した。

 閃光に染まるタイヴァス。

 ズワルトゥが舌打ちする。ブラックが飛び去った。


「おのれ、ヴァルコイネン」

 鳥の意匠をもつ魔族が、巨大な要塞の中でこぶしを握りしめた。

「元気出してくださいよー。シャドウなら作りますから」

「いらぬ!」

 イモータルは、何か言いたそうにしながらも黙ってしまった。

 猫の意匠をもつ魔族と鼠の意匠をもつ魔族は、何も言わずにお互いの顔を見た。


 ビューイの町に戻ったルーフスたち。

「というわけで、ですね」

「いかん」

「お願いだから、ね」

「ダメだと言っただろう」

 やはり、巨大な獣を近くに置くことに反対される。

 去ろうとするジャッロに、亜人の子供たちが声をかけた。

「守ってくれてありがとう」

「当たり前のこと。気にする必要はないでござる」

 迷惑を考え、その場をあとにするルーフスたち。うしろ姿へと、子供たちは手を振りつづけていた。

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