第10話 その名はタイヴァス

「ご苦労だったな」

 ズワルトゥが攻撃を繰り出し、ルーフスが吹き飛ぶ。

 トンファーを握り直して、黒い服の男が不敵な笑みを浮かべた。

 やはり、彼が求めているのは力のみなのだ。

「お前は!」

「やるしかない」

 ローザヴイとヘルブラオが臨戦態勢になる。ほかの戦士たちもつづいた。

 その瞬間、空に開いた異世界への扉は閉じてしまった。

 ななつの心がバラバラになったからだ。

 一人が息をはく。

「あいつか、俺の相棒は」

 光に包まれ、鷲型の黒い巨大な獣に乗り込むズワルトゥ。意思を反映して動く仕組みのようで、操縦桿そうじゅうかんはない。

「いくぞ。ブラック」

「まずい。おれたちも行くぞ」

「もちろん」

「ほうっておいたら、大変よ」

 ルーフスは赤い獅子に乗り込んだ。

 ベルデは緑の象に。

 カエルレウムは青い狼へと。

「やはり、こうなるのか」

「やるぞ」

承知しょうち

 ローザヴイは桃色のラクダに乗り込む。

 ヘルブラオは水色のサイへ。

 ジャッロは黄色のキリンに身をあずけた。

 1対6になっても、ズワルトゥはまったく引かない。空から射撃を試みる。

「なめるな!」

「頑張れ、アカ」

 吠える獅子。牙で食らいつこうとする。だが、赤い獣の攻撃はくうを切る。

 飛べる相手とは相性が悪い。

 六人での連携を模索していた。ただし、スカーフを通じて通信できるのは七人。ズワルトゥにも筒抜けになってしまう。

「任せろ。マゼンタ!」

「おう。シアン!」

拙者せっしゃもお供いたす。イエロー!」

 そして、3体の獣は攻撃しなかった。ブラックが降りてくるのを待っていた。

「グリーン、ここだ!」

「ブルー、いまよ!」

 緑の鼻と、青い牙が襲いかかる。

 わずかに外れた。しかし、かすっただけでも高度を維持することは難しい。

 いくらブラックが空を飛ぶとはいえ、6体が相手ではが悪いのだ。

「今日のところはひきあげてやるか」

 ブラックは飛び去っていった。


 クライダル軍団に力を与えることは阻止した。

 しかし、まだボスの姿を見ていない。

「クライダル。次はどうするつもりだ」

「考えすぎないほうがいい」

「ベルデに言われるなんてね」

 ルーフスたちが、出口の見えない明日を見つめる。

「さて、それでは説明を願うでござる」

 唐突に、ジャッロが切り出した。

「説明ならボクに任せて」

 宙に浮く光のかたまりが、自信満々に告げた。

「長くなりそうだな」

「一緒に聞くぞ」

「そうだ。ルーフスは全部覚えてないんじゃないか?」

 ローザヴイとヘルブラオが、ルーフスを足止めした。

 そして、長い説明が始まる。


 クライダル軍団の要塞の中。

 その一角がぽつんと開いている。

 ズワルトゥは戻ってきていない。

「力を返してもらうぞ」

「はっ」

「仕方ないわね」

「ご用命とあらば」

 まがまがしいオーラが、鳥の意匠をもつ魔族のもとへと吸い込まれていく。

 サビレーたちに与えた力。それを、クライダルは取り戻したのだ。

「待っていろ、人間ども。ヨ自らが魔物を作り出してくれるわ」

 宣言し、魔族の王が椅子から立ち上がる。転移陣へと歩いていった。


 巨大な獣を街中に連れて行くわけにはいかない。

 獣たちは、山の中にいた。

 ザパンの町を離れ、ルーフスたちが様子を見に行く。

 みな一様いちように、ズワルトゥとブラックのことを思いだしていた。

 決定打を与えられなかった戦いを。


 目の前はザパンの町。

 クライダルが街はずれに立つ。

 ヴァルコイネンを追ってきたわけではない。なぜなら、戦うそぶりを見せないからだ。

 ゆっくりと歩みを進め、人間を見下す。

 魔族の王は、人をつかみ、魔物を作り出した。いや、まだだ。これまでとは様子が違う。

 つかまれた人が苦しみだし、気を失った。

「うぐっ」

 魔物はとんでもない大きさになり、真下から見上げることすらできない。ヴァルコイネンが駆る巨大な獣よりも大きくなった。

 テントウムシに似た魔物。その名はテントウカン。

「テントウ、カーン」


 異変に、みんなすぐに気づいた。

 山に迫ろうかという巨大な何かが見える。

「なんだ、あれは」

「クライダル軍団の魔物だよ」

「でかすぎる」

「ぐだぐだ言っても仕方ない」

「行くでござる!」

装備そうび!」

 アカたちに乗り込み、ヴァルコイネンが魔物を山へと誘う。そのさなか、街の外れで見慣れない魔族を見つけた。

「もしかして、あいつが」

「クライダル軍団のボス」

「クライダルか」

 幸い、街を盾にされることもなく、テントウカンは山へといざなわれた。

「うひゃっほいっ」

 巨大な魔物が飛んだ。風圧だけでもものすごい威力。木々が揺れ、葉が舞う。

「うわっ」

「どうするの?」

 爪や牙は、わずかに届かなかった。

 降りてくるところを見計らって攻撃する。だが、バラバラの攻めでは効果が薄い。

 テントウカンはいまだ健在。

 みな、攻めあぐねていた。

「こうなったら、あれしかないよ」

「どれだよ」

 スカーフから聞こえてきた言葉に、ルーフスがツッコミを入れた。

「合体して戦うんだ」

 精霊ルミによると、巨大な獣は合体できるらしい。

 ルーフスたちは心をひとつにし、合体を試みる。

「なんだっけ? 名前」

「タイヴァス」

「そうそれ」

「いくぞ。合体だ!」

 獣が変形していく。宙に浮きながら。

 アカが胴に。ミドリが右脚。イエローが左脚。アオは右腕。シアンが左腕。マゼンタがバックパック。

 合体。胸の操縦席が広がる。ルーフスをのぞく全員が、一瞬でそこに移動した。

「転移陣か」

「完成! タイヴァス!」

 タイヴァスが完成した。巨大な人型のロボットだ。

 すでに着地している。

 獣が合体したタイヴァスは、巨大な魔物をものともしない。

 大きさもほとんど同じになっている。

「そんな、まさかぁ」

 パンチからのキックで、テントウカンが吹き飛ぶ。飛行が間に合わない。地面が大きく揺れ、土埃つちぼこりが舞った。

「いける! けど、どうやって倒す?」

「タイヴァスショットを使うんだ。心をひとつにして」

「なんだかわからないけど、わかったぜ」

 六人が同じ目標を見て、狙いを定めた。

「タイヴァスショット!」

「ぬわーっ」

 胸の獅子の口から光の弾が発射され、巨大な魔物に吸い込まれていく。爆発した。

 願いをひとつにして放ったタイヴァスショットで、テントウカンを撃破したのだ。

「見事なり。ヴァルコイネン」

 クライダルは、悔しいそぶりを見せることなく去っていく。


 タイヴァスの力は大きい。

 ルーフスは気を大きくしていた。

「この力があれば、クライダル軍団なんて目じゃないぜ」

 誰かがため息をついた。

「おごり、たかぶりは身をほろぼすぞ」

 ローザヴイの言葉に、ルーフスはムッとした様子を見せない。

「ありがとう。ローザ」

「ちょっとは成長したじゃない」

 カエルレウムが茶々を入れた。そして、やはり赤色が礼を述べる。

青春せいしゅんでござるな」

 同じくらいの歳のジャッロが、しみじみと言った。

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