第三章 ジャッロ
第9話 ジャッロの強さ
秋風が吹く、ザパンの町。
カードゲームに興じるルーフスたち。
とつぜん、宙に浮く光のかたまりが、強くかがやく。
「ついに、集まったよ」
「まだカードは残ってるぞ」
「そうじゃなくて」
「最後のヴァルコイネンか」
「見つかったのね」
ベルデとカエルレウムは理解が早い。力がすべて現れたことを、精霊ルミが告げたのだ。
つづいて、ローザヴイが聞く。
「クライダル軍団には?」
「まだ、気づかれてないみたいだね」
「そうか。だったら」
「いまがチャンスだ!」
ルーフスが、ヘルブラオの言葉のつづきを言った。
「でも、問題がある」
「ズワルトゥね」
そう。敵であるズワルトゥもいなければならないため、こっそり行うのは難しいのだ。
ルミの遺跡の力をすべて集めると、異世界への扉が開くという。それを、クライダル軍団も狙っていることから、危険であることは
「話は聞かせてもらったぜ」
すると、スカーフが光に戻り、精霊ルミのかがやきが増した。
精霊ルミの力で、スカーフ同士は通信ができるのだ。
黒い服の男は、クライダル軍団の要塞にはいなかったことを告げる。
「いまだけでいい。力を貸してくれ」
「分かった」
あっさりとした返答を
巨大な要塞の中。
クライダル軍団のアジトに、どよめきが起こる。
監視映像を見ると、ズワルトゥが無断でヴァルコイネンと行動を共にしているからだ。
「やつめ」
「へぇ。そういうことしちゃうんだ」
「ふむ。いかがなさいますか?」
鼠の意匠をもつ魔族が、主に問う。
椅子に座る、鳥の意匠をもつ男が動く。クライダルが部下に命じる。
「いるな、イモータル。シャドウを作り出すのだ」
黄土色を基調とした、植物のイモっぽい魔物が現れた。
「わっかりましたー」
自分の体の一部をちぎっていくイモータル。そして、ばらまいた。
硬い床から現れたのは、灰色の魔物が18体。
イモータルは、みずからの細胞を増殖させて兵士を作り出したのだ。
「お前たち、ゆけい!」
「はっ」
「りょうかいよ」
「お任せくださいませ」
熊の意匠をもつ男と違い、猫の意匠をもつ女はひざをつかなかった。
魔族と魔物が、転移陣で消えた。
サビレーとメゲとベコムは、初めて共同での作戦にあたる。
ザパンの町の北側。
「にげろー」
「はやくしろっ」
しかし、間に合わない。
サビレーたちが人間に手をかざす。黒いもやもやとした煙が湧きあがり、じょじょに人に近い形へと変わっていく。
3体の魔族が、3体の魔物を作り出した。それぞれ、トンボ・セミ・ハエのような魔物。
クライダルから貸し与えられた力を使い、心の闇が形になったのだ。
その名は、トンボテール。さらに、セミコンダクター。そして、ハエモドルム。
「トンボ、テールー」
「セミ、コンダクター」
「ハエ、モドールム」
すべて飛ぶことができる。対して、ヴァルコイネンで飛び道具を使えるのは一人だけだ。
「
そこへ現れたのは誰か。黄色い服の男。それは、ジャッロだ。ヴァルコイネン最後の一人。
「
「間に合わなかったか」
すでに、黄色い戦士が戦っている。ルーフスたちは遅れたことを悔やんだ。
「まずはシャドウだ」
「協力するぞ」
「あんたから、そんなセリフを聞けるなんてね」
ズワルトゥの言葉に、カエルレウムだけが反応した。
弓矢でシャドウを倒す青色。黒い服の男は、両手それぞれにトンファーを持ちながら蹴りでシャドウを粉砕した。
七人の戦士たちは、見事な動きで灰色の魔物たちを倒していく。あちこちで爆発が起こった。
ジャッロの武器はかぎ爪。もちろん、左右どちらにも持つ。
「
「話はあとだ。こいつらはおれたちに任せろ」
赤色が勇み、いろいろな色も同意する。
ルーフスとズワルトゥ対サビレー。
パンチとトンファーによる一撃が、熊の意匠をもつ男に迫る。
黒い服の男は、即席とは思えないほどのコンビネーションでサビレーを追い詰めていた。
「裏切ったか。人間!」
「オレはズワルトゥだ。覚えておけ」
ベルデとカエルレウム対メゲ。
槍で近付き、矢が援護する。
緑色と青色は、息の合った連携で逃げ場を奪う。
「なかなかやるじゃない」
「まだまだ、これから」
ローザヴイとヘルブラオ対ベコム。
桃色と水色も、蹴りと剣技を織り交ぜて間合いを詰める。
「これはいけませんねえ」
「その余裕をなくしてやる」
ジャッロは、3体の魔物に狙われていた。
「
空中からの攻撃を寸前でかわし、反撃を浴びせた。
「まさかぁ」
「ちくしょうぅ」
「出番がぁ」
かぎ爪がうなり、あっというまに3体とも撃破。新人だというのに予想外の強さを見せる。
「向かってくることが分かっていれば、対処は
多勢に無勢。逃げるサビレーたち。
「覚えていろ」
「覚えてなくてもいいでしょ」
「撤退しかなさそうですな」
追おうとするルーフスたちを、ズワルトゥが止めた。
「待て。やる事があるはずだ」
「そうだよ。いまがチャンス」
人々を巻き込まないよう、街から離れた林の中に移動する一行。
精霊ルミの導きで、すべての力がひとつになる。
赤色・緑色・青色・桃色・水色・黄色・黒色。
「なんだ?」
「空に、穴が」
「何が起こるの?」
ついに、異世界への扉が開いたのだ。
街にあるどの建物よりも背の高い、色とりどりの巨大な獣たちが現れた。その数7体。
グレイティスには存在しない物。正確には、獣のような形をしたロボットだ。
「金属じゃ、ない?」
「不思議な質感だ」
「これはいったい?」
ジャッロは状況がよく分かっていない。
「異世界への扉が開いたんだ。これはタイヴァスの一部だよ」
スカーフから、精霊ルミの声がひびく。
「一部? 名前は何だ?」
「ルミの遺跡みたいに、どうせ好きに呼ぶでしょ。勝手に決めてよ」
会話に加わろうとしないズワルトゥは、口元をゆるめた。
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