第8話 扉とさらなる力
クライダル軍団の要塞の中。
「見つからないとはな」
鳥の意匠をもつ魔族がつぶやいた。クライダルは悩んでいるようだ。
「あんなにいるのに。おっと、ここにもいたわね」
「オレはヴァルコイネンを名乗ったことはない」
猫の意匠をもつメゲは、ズワルトゥにちょっかいを出した。そして、軽くあしらわれた、
探しているのは、最後のヴァルコイネンのようだ。
「これで全部ではないのですか」
「そのはずはない」
「ルミの遺跡がどこにあるかさえ分かりませんから。困りましたな」
熊の意匠をもつサビレーと、鼠の意匠をもつベコムも悩み始めた。
まったく迷いのない男が口を開く。
「すべて集めると、どうなる?」
礼儀をわきまえないズワルトゥに、サビレーが苦言を
「口が過ぎるぞ」
「まあ、よい」
「はっ」
「遺跡の力をすべて集めると、異世界への扉が開く。さらなる力を得られるのだ」
椅子に座るクライダルが、両手を広げた。
「さらなる力――」
「そうだ。すべてをヨのものとする」
口角を上げるクライダルを見ながら、ズワルトゥがほくそ笑む。
初夏の風が吹くザパンの町。
街の外れにある公園で、五人は今日も訓練をしていた。
珍しく、ぽつりとつぶやく精霊ルミ。
「あれ。珍しい」
ヴァルコイネンの五人の前に、黒い服の男が現れた。
「よう」
「ズワルトゥ!」
構える五人。風が吹き抜け、緊張が走る。公園にはほかにも人がいるからだ。
「まあ待て。話をしに来た」
「信じられるわけないだろ」
「何が目的なの?」
カエルレウムの問いに、答えは返ってこなかった。
どうやら、ほんとうに戦う気がないようだ。
「聞け。重要な話がある」
「うさんくさいな」
「ああ」
桃色と水色は、やはり信用していない。だが、ズワルトゥの次の言葉が、二人の態度をすこし変えることになる。
「クライダルの目的は、遺跡の力をすべて集めて、異世界への扉を開くことだ」
何を言いだそうか迷っている四人より早く、赤色が口を開く。
「ちょっと待ってくれ。もう全員じゃないのか?」
「まだ仲間がいるのか」
赤色と緑色の認識にはズレがあるようだ。ベルデは
「ここにすべて集まってたら、扉が開いてるよ」
精霊ルミも認めた。青色の表情が変わる。
「本当なのね」
「分かったら、さっさと見つけることだな」
言葉を残して、ズワルトゥが去っていく。
新緑のなか、山を歩くメゲとベコム。
「広いわね」
「
メゲとベコムは、協力して遺跡を探している。魔族にとって、この程度の山道は苦にならない。
しかし、まったく見つかる気配がない。
「あっ」
「見つかったのか?」
違った。見つけられていた。ヴァルコイネンに。
ルーフスたちが、魔族を見つけたのだ。
指をさす赤色。
「メゲ、ベコム。こんなところで、何をしている!」
「
「そうよ。早くお家に帰りなさい」
「そう言うだろうと思った」
「
宙を舞う光のかたまりが、いつつに別れた。五人のスカーフとなり光かがやく。
それぞれ、グローブ・槍・弓矢・シューズ・剣を身につけた戦士たち。
その名は、旋風炎陣ヴァルコイネン。
「いくぞ!」
「まだまだ、ぬるいわ」
メゲは、しなやかな動きで攻撃を受け流している。
「ここだ」
サビレーのパンチとキックが襲いかかってくるため、ルーフスたちはメゲだけに集中できない。とはいえ、みんな的確にガードしている。
すこしずつ態勢が変わってきた。
パンチとキックを防ぎ、剣と槍をはじく。軽く攻撃をいなすメゲ。だが、五人に囲まれてじょじょに劣勢になる。
それもそのはず。人間がいないため、メゲとベコムは魔物を作り出していない。
そして、サビレーには連携する気がないのだ。
「やるな。ヴァルコイネン」
「見てないで、なんとかしてよ」
五人が優勢になったところで、メゲが身を隠した。今度はサビレーが五人の相手をする。
「ぬう」
メゲとは違い、きっちり受けて防御を固めるスタイルのサビレー。実力が上がってきている五人相手では、少々分が悪い。
矢で動きを制限して、パンチと剣がダメージを与えた。
「いけるぞ」
「ここまでね!」
「なんと」
いつつの武器を合体させ、巨大な砲身が現れる。
「ヴァルコイネンシュート!」
直撃しなかった。
ルーフスたちは、実力でメゲとベコムを退けたのだ。
時が過ぎていく。
「違うわね」
「ええい。まだるっこしい」
「ぼやくのはよくないねえ」
最後のヴァルコイネンを、敵も味方も探していた。
「どこだ」
「ここ、じゃない」
そして、誰も見つけられない。
それは偶然だった。
地震により開いた入り口から遺跡へと入る若者。
「
最深部で、光に手がのびる。
光が黄色くなった。
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