第7話 ベコムとチョーク

 黒い巨大な要塞の中。

「暴れてヴァルコイネンを誘いだせ」

 椅子にどっしりと座るクライダルが命じた。

 黒い服の男は動かない。ズワルトゥは、命令に従う気がないようだ。

「お手並み拝見、だな」

「ふん。人間風情にんげんふぜいが」

 サビレーはズワルトゥを信用していない。それを態度で表している。

「そう言わないの。面白いじゃない」

 メゲは力だけに興味がある様子だ。黒い男の本質には触れない。

「では、ワシにお任せを」

 クライダルの命令は、ベコムが引き受けた。

「お前だけで行くのか?」

「ちがいます。来なさい、イモータル。シャドウを作るのです」

 ベコムが呼び、黄土色を基調としたイモっぽい魔物が現れた。

「りょうかいでっす」

 いつものように自分の体の一部をちぎっていくイモータル。すぐにばらまかれた。

 硬い床から現れたのは、灰色の魔物15体。

 イモータルは、みずからの細胞を増殖させて兵士を作り出すことができる。

「ほう」

 興味深そうに眺めるズワルトゥを横目に、ベコムはシャドウを引き連れて出撃した。


 ザパンの町。いつもの公園。

「はあっ!」

「せいっ!」

 パンチとキックが交差し、二人が息をはく。

「まだだ。ローザ」

「わかった。もう一度いこう」

 ルーフスとローザヴイが、生身で汗を流していた。

「ここだ!」

「甘いな!」

 訓練用の木槍と木剣がぶつかり、突きの軌道がそらされた。ヘルブラオには当たらない。

「ふう」

「休憩か?」

「まだまだ!」

 ベルデはふたたび構えた。

「弓矢って、地味だと思わない?」

「ボクに言われても、わからないよ」

 精霊ルミには、派手さに関する基準がないらしい。

 放たれた矢が風を切る。的の中心に命中した。


 いつものように、シャドウが暴れなかった。

 ザパンの町の北側で、鼠の意匠をもつ魔族が動く。

「たしか、このあたりでしたな」

「助けてー」

 花屋の人物がシャドウにつかまってしまった。花に寄ってきていたチョウが飛び去る。

 つかまれているため、彼女は逃げられない。そのまま、ベコムは力を込めた。

 ふくれあがる黒いもや。

 心の闇が実体となり、チョウのような魔物、チョークが出現したのだ。

「チョー、クー」

「やめろ!」

装備そうび!」

 宙に浮く光のかたまりがいつつに別れ、武器とともに五人に宿った。

「その人から離れてよ!」

「きましたね。ヴァルコイネンのみなさん」

 駆けつけたヴァルコイネンが、スカーフを揺らした。倒すべき相手と対峙する。

 だが、その相手は。

「ひょうっ」

 魔物、チョークが飛ぶ。

「ここです」

 ベコムも襲いかかってきた。カードを使い、遠距離から戦う。

 さらに、大量のシャドウも武器を持ち押し寄せる。剣を持つタイプと、槍を持つタイプだ。

「ベコムはあと。まずはシャドウからだ」

「了解」

「そうだな」

 赤色の提案に、桃色と水色が賛同した。

「そうと決まれば」

「一気にいくよ」

 緑色から槍がのび、灰色を蹴散らしていく。爆発が起こった。

 青色からは矢が飛び、灰色を吹き飛ばす。やはり爆発が起こった。

 パンチとキックが武器を防ぎ、剣と剣がぶつかり合う。

 二人を守るように三人が動く。たいしたダメージもなく、シャドウのせんめつに成功した。

 しかし、問題はここからだった。

 空を飛ぶ魔物相手に、ヴァルコイネンは苦戦する。

「ベコムも気にしないといけないのに」

「よそ見はいけませんねえ」

 槍が回転した。飛んできたカードを防ぐベルデ。回転が止まったところでカエルレウムが矢を放つものの、すでにベコムは移動したあと。

 チョークが空から襲いかかり、防御を余儀なくされるヴァルコイネン。

「飛びますぅ」

「私たちで抑える」

「そのあいだに。レウム!」

「ローザ、ブラオ、わかったわ」

 赤色と桃色が接近し、緑色と水色がサポートする。じょじょに間合いを狭めていた。

「ほう。そうきますか」

 四人がかりでベコムの相手をしているなか、カエルレウムは集中していた。弓を引き絞る。

「見えた!」

 カエルレウムの放った矢が、チョークに命中。地上に落とした。

「しまったぁ」

 間髪入れず、武器を合体させるルーフスたち。狙いは定まっている。

「ヴァルコイネンシュート!」

「おのれぇ」

 身動きの取れない魔物に、光の弾が命中。大爆発するチョーク。

「なかなかやるようになったねえ」

 ベコムは撤退していく。


「なんで、花屋の人が」

 カエルレウムは、思いを口に出していた。

 なぜ狙われたのか。ポニーテールを揺らし、カエルレウムが思案する。そして、他人と関わらないようにしていたローザヴイとヘルブラオのことを思いだす。

 ロングヘアをなびかせ、ローザヴイが話に入ってくる。

「気になるのか?」

「もちろん。ズワルトゥのことがあったあと、勇気をくれた人だから」

「そうか」

 ヘルブラオが悪態をつく。

「クライダル軍団め。卑劣ひれつな真似を」

「ほんと、ひどいよ」

「無事でよかったな」

 明るいルーフスとは対照的に、ベルデの表情は暗い。

「見張られている? やっぱり、クライダル軍団の目的は、世界の統一の先にあるんだ」

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