第二章 ズワルトゥ

第6話 ズワルトゥの異質さ

 春風が吹く北の遺跡。

 誰も立ち寄らなかった忘れさられた場所に、人影がある。

「……」

 何者かが最深部へ到達していた。そして、光が黒く染まる。


 幹部を連続で撃退し、さらに特訓もした。

 自信をつけたヴァルコイネンの面々。ザパンの町を散策している。

 桃色の服のローザヴイが釘をさす。

「油断は禁物だぞ」

「ああ」

 水色の服のヘルブラオは、いつもどおりの言葉を繰り返していた。

「わかってるって。なあ」

「そう。油断は大敵」

「ベルデまで、かたいよ。もうちょっと、やわらかくいこう」

「そんなに硬くはない。と、思う」

 青い服のカエルレウムと赤い服のルーフスが笑顔になる。

「もっとだよ」

 宙に浮く光のかたまりが言った。ヴァルコイネンに力を貸す、精霊ルミだ。緑の服のベルデは苦笑い。

 少しずつ、五人は親交を深めていた。


 巨大な要塞の中。

「では、ワシの番ということで」

 ベコムの出撃前に、異変は起こった。

「む?」

「あら? 誰かしら」

 いぶかしむ、サビレーとメゲ。

 映像に、ザパンの町で被害が起きる様子が映っている。

「ほう? こやつは――」

「はーい。シャドウは、あれれ?」

 クライダル軍団は様子を見ることにしたようだ。


装備そうび!」

 ふわふわと浮く光のかたまりがいつつに別れ、五人へと宿る。それぞれに、首でかがやくスカーフと武器が与えられた。

「クライダル軍団め。性懲しょうこりもなく」

「待って」

「なんだと」

 土煙つちけむりが晴れる。

 現場に駆け付けたヴァルコイネンが見たのは、魔族や魔物ではなかった。

 トンファーを振るう人間だった。首にはスカーフ。

「お前たちが、旋風炎陣ヴァルコイネンか」

「何をやっている。何者だ」

 ヘルブラオの問いに、同じような姿をした黒い服の人物が答える。

「力を試しているのさ。この、ズワルトゥ様がなぁ」

 まったく迷いを感じない。狂気のようなものすらうかがえる。

 力に溺れる者としか言いようがない、まがまがしいオーラをまとうズワルトゥ。遺跡の力を手にしながら、悪に染まっているのだ。

「こんなことはやめろ。同じ人間じゃないか」

「はっ」

 失笑が飛ぶ。黒い服の男は、ベルデの言葉をまるで意に介していない。

「ルミの遺跡の力って、あんなやつにも使えるのかよ」

「なんとかできないの?」

「ボクに言われても」

 ルーフスとカエルレウムの質問は、あまり意味をなさなかった。

 スカーフに姿を変えている精霊ルミは、どうやら手を出せないようだ。

「満足か?」

「あ?」

「手も足も出ない者たちを痛めつけて、満足かと聞いている!」

 ローザヴイが、めずらしく感情をあらわにした。

「満足だぜ。はっはっはっ。お前たちが、のこのことやってきたんだからな!」

 攻撃を仕掛けてくるズワルトゥ。話し合いは決裂した。

 黒い服の男が、歩みを進める。

 左右の手に持つトンファーを使い、容赦なく攻めるズワルトゥ。

「うわっ」

「この野郎」

 ヴァルコイネンの五人は、相手が人間なので本気を出せない。

「おい! 強いやつと戦いたいなら、クライダル軍団がいるだろ」

「興味が、ない」

「なにそのワガママ」

 戦いながら話しても、やはりズワルトゥには届かない。

 パンチも槍も、難なくガードされる。矢は紙一重かみひとえでよけられた。

「どうした? 動きが鈍いぞ」

「なんの」

「させない!」

 五人を相手にしているのに、黒色の服の男にはまだ余裕があるようだ。

「はっ!」

「くらえ!」

 キックも剣も防がれる。

「人間と戦うほうが面白いだろうが。なぜ分からない!」

 目にもとまらぬ連撃が繰り出された。と思えば、重い一撃が振るわれる。

「くっ」

「こんなやつに」

 装備そうびが解除される五人。倒されてしまった。

「おい。見ているんだろ? 迎えをよこせ」

 去っていくズワルトゥ。

 街はずれにやってきたのはサビレー。転移陣を使い、黒い服の男はクライダル軍団と合流した。

「なんでだ」

 妙な顔をするベルデ。

 クライダル軍団は、ヴァルコイネンの装備そうびが解除された好機だというのに、襲ってはこなかったのだ。


 人間のズワルトゥとも戦わなければいけない。

 ヴァルコイネンの面々のなかには、すでに事実を受け入れた者もいた。

「次は負けない」

「ああ」

 街のかたすみで、ローザヴイとヘルブラオは、すでに戦う準備ができている。

「ちょっと、一人にさせてくれ」

 ベルデは、人ごみの中へと消えていった。

「わたしも」

 カエルレウムも、別の方角へと向かう。

「おれは――」

 ルーフスは、その場にとどまっていた。桃色と水色が見守る。

 悩むベルデは、すぐに戻ってきた。

「考えても仕方ない。答えは出てるんだ。ぼくは戦う」

 緑色が覚悟を決めた。

「ありがとうございました」

「わたし? まだ買ってないけど」

 付近の花屋でとつぜん礼を言われ、カエルレウムは慌てていた。

「さっき守ってくれたから、この子たちが傷つかずにすみました」

「さっき?」

 意識的にではなかった。攻撃を受けたことで、結果的に守られたものがある。

 花屋で勇気をもらい、青色もみんなのもとへ戻ってくる。気合いを入れた。

「よし。そろったな。次こそ勝つぞ!」

 赤色が闘志を燃やす。

 精霊ルミは、光をたたえているだけ。

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