第5話 メゲとカイロス

 街の人を巻き込むわけにはいかない。

 同じ思いの五人は、森の中で遺跡を探していた。クライダル軍団に対抗するため、ルーフスたちはさらなる力を求めているのだ。

 土の匂いと植物の匂いが合わさり、まだ寒さが残るなか、独自の雰囲気が立ち込めている。

「場所は言えない決まりなんだよ」

 精霊ルミによると、遺跡はほかにもあるらしい。

「決まりってなんだよ」

「まあ、ぼやいても仕方ない」

 ひたすら歩く。そして、探す。

「これじゃないか? って、違うか」

「最近作られた塀だ」

 ヒントなしで見つかるはずもなく、時間だけが過ぎていく。誰かのお腹が鳴った。

「そろそろ、町に戻りましょう」

「そうだな」

「決まったなら、急ぐぞ」

 街へ戻ってくる五人。食事をするための場所を探し始めた。


 巨大な要塞の中。

「来なさい、イモータル。シャドウを作り出して」

 メゲの言葉で、黄土色を基調とした、植物のイモっぽい魔物が現れた。

「わっかりましたー」

 おどけた言葉とは裏腹に、自分の体をちぎっていくイモータル。そして、ばらまいた。硬い床から現れたのは、灰色の魔物が15体。どれもイモっぽい。

 イモータルは、みずからの細胞を増殖させて兵士を作り出したのだ。

 紫色を基調とした鳥のような意匠をもつ男が、椅子に座ったまま部下へ指示を出す。

「ゆけ。メゲよ」

「りょーかい」

 青緑を基調とした猫のような意匠をもつ魔族が、シャドウを引き連れる。転移陣を踏んだ。

「さて、どうなるか」

「見ものですな」

 こげ茶色と濃い青色の魔族は、最初から出撃する気がなかった。


 ザパンの町の食堂。

「なぜ、こうなる」

「理解しがたい」

 ローザヴイとヘルブラオは、ルーフスたちと同じ定食を食べていた。

「同じものを食べれば、気持ちもひとつになるかもしれないだろ」

「そうかな」

「形から入るのも、いいかもしれないわ」

 否定的なベルデを、カエルレウムがなだめた。

 人間同士でぎくしゃくしている様子を、周りの亜人たちがやれやれといった雰囲気で遠巻きに眺めている。

 あまりなごやかな食事ではないものの、ケンカまではいかない。

「食事は必要だから、したほうがいいよ」

 どこかずれた精霊ルミが、持論を展開した。


 暴れるシャドウ。

「くっ」

 素手タイプのシャドウが、複数で一人を取り囲む。その人間に、メゲが手をかざした。

 なんと。心の闇が実体化し、カイっぽい魔物になった。その名はカイロス。

「カイ、ロース」

「遅かったか」

装備そうびだ!」

 宙に浮く光のかたまりがはじけて、スカーフとなる。五人の首に巻きついた。

「ヴァルコイネン参上!」

「きたわね」

 猫のような意匠をもつ魔族は、不敵な笑みを浮かべている。

 武器を取り出し、メゲが構えた。

 メゲは長い棒を使い、中距離メインで戦う。

 カイロスは、口から水を吐き出す遠距離攻撃と、近距離の格闘もそつなくこなす。

「しゅっしゅっしゅぅ」

 槍と棒がぶつかっているあいだに、水が飛んでくる。矢は避けられ、パンチとキックの間合いには一歩届かない。

 ヴァルコイネンは押されていた。

「メゲも、やっぱり、手強てごわい」

「うろたえるな!」

 緑色を、桃色が激励げきれいした。カイロスにキックを浴びせる。

「そうだ。いけるぞ」

「わたしだって!」

 水色に、青色がつづく。剣で棒の動きを変えたところで、槍の一撃を与えた。

「何よ。いきりたっちゃって」

「ここがお前たちの墓場となるのだぁ」

 言っていることはバラバラでも、クライダル軍団の結束は固い。それを、ローザヴイはよしとしない。

「させるか!」

「そうだ。おれたちは負けない!」

 赤色の放つパンチが、両者の均衡きんこうを破る。

 メゲとカイロスの連携を、ルーフスたちのコンビネーションが上回った。

 スカーフから声がひびく。

「いまだ。いけるよ」

「言われなくても」

「そんなこと言わない。ありがとう。ルミ」

 ローザヴイをさとし、礼を言うベルデ。心がひとつになる。五人は武器を合体させた。すぐに構える。

「ヴァルコイネンシュート!」

「ぐはあっ」

 放たれた光が命中し、カイロスを撃破。すぐさま派手に爆発した。

「覚えていなさい」

 メゲは去っていった。


 クライダル軍団の幹部は手強い。

 ルーフスたちは、特訓してさらなる強さを得ることにする。いつもの公園にやってきた。

 ローザヴイとヘルブラオが先生役。

「おてやわらかに。ローザ」

「頼むね。ブラオ」

「お。いいな。おれもそう呼んでいいか?」

 ルーフスは、どこか嬉しそうだ。

「勝手にしろ」

「なんでもいいぞ。カエル」

「ひどい。レウムって言ってよ」

「冗談だ」

「やっぱり面白いね。人間は」

 宙に浮く光のかたまりが、しみじみと言った。

「ルミだって面白いだろ。気づいてないのか?」

 静寂がおとずれた。精霊ルミがきょとんとした様子になったことを、人間たちは感じられないのだ。

 そして、五人が装備そうびした。特訓が始まる。

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