第4話 サビレーとイカベイト

 クライダル軍団の要塞の中。

「足並みがそろわないうちに、ヴァルコイネンを叩くべきです」

 鳥の意匠をもつ男に、サビレーが進言した。

「ほう。意見とは珍しいな。それも一興か」

 クライダルは、ヴァルコイネン討伐にあまり乗り気ではないようだ。

 とはいえ、サビレーが出撃するのを止めはしなかった。

 猫の意匠をもつ女が口をはさむ。

「手を貸しましょうか?」

「いらぬ」

「ならば、ワシも様子を見させていただく」

 鼠の意匠をもつ男は、あっさりと引き下がった。クライダル軍団の幹部は魔族だ。

 そして、イモータルがシャドウを作らなかった。

「わっかりまし……あれ?」


 ザパンの町の外れにある公園。

 今日は、三人とも訓練をせずのんびりしていた。

「仲良くできればな」

「まだ言ってる。切り替えていこう」

「そう簡単には割り切れないよ」

 ローザヴイたちの処遇について、意見はまとまっていない。まったく口をはさまない精霊ルミに、ルーフスが声をかける。

「何か言ってくれ、ルミ」

「え? ボク? なんの話だっけ」

 ふわふわと浮きつづきえる光のかたまりは、まるで緊張感がない。

 三人が頭を抱えたところで、遠くから悲鳴が聞こえてきた。

 お互いの顔を見るルーフスたち。走りはじめる。

装備そうび!」


 いつもと違い、たくさんのシャドウがいない。

「1体なら」

「やめろ。むりだ」

「ぐわあっ」

 あっというまに返り討ちにあう街の人。

 サビレーが人間に手をかざし、魔物を作り出した。イカのような。名は、イカベイト。

「イカ、ベーイト」

「こんなものか」

 そして、彼は待った。


「旋風炎陣ヴァルコイネン参上!」

「来たか」

「とうっ!」

 ルーフスたちが、イカベイトに戦いを挑む。

「やっぱりこっち狙いぃ?」

「そうはいかん」

 サビレー参戦。グローブとシューズで格闘戦を仕掛けてきた。近距離主体。

 イカベイトは、遠距離の墨と中距離の触手を兼ね備えて、遠距離主体。

 腕も脚も、同時に気をつけなくてはいけない。さらに、イカベイトがちょっかいを出してくるので気が抜けない。

 キックを防ぐルーフス。イカベイトの墨を、カエルレウムの矢が落した。のびる触手は、ベルデが槍で対処する。ただし、そうそううまくはいかない。

 サビレーの攻撃を、ベルデとカエルレウムが受けた。

 グローブ同士がぶつかる。

「サビレー!」

「こんなに手強てごわかったの?」

 ベルデとカエルレウムは、サビレーの強さに驚きを隠せない。

 連携がさえわたり、ルーフスたちは苦戦する。

 あちらのほうが一枚上手だ。

「待たせたな」

 ローザヴイとヘルブラオがやってきた。

「ここで朽ち果てるがいい」

 軽く笑いながら、サビレーが猛攻を仕掛けてきた。

「させるか」

 ヘルブラオが剣で受け、火花が散る。ローザヴイの蹴りはかわされた。うしろに跳んだサビレーが体勢を立て直す。

 ルーフスたちを無視して、ローザヴイたちは戦い続けていた。

 赤色が叫ぶ。

「よし。連携だ!」

「そうだよ。ヴァルコイネンじゃなくてもいいから、一緒に」

 精霊ルミの言葉すら無視されてしまった。

 キックが触手に阻まれ、剣はパンチで押し戻される。桃色と水色が本領を発揮するためには、何かが足りない。

 協力して戦おうとするも、うまくいかないルーフスたち。

 それどころか、お互いに足を引っ張り合う結果となってしまう。

 イカベイトすら倒すことができない。


 吹き飛ばされるルーフス。

「私たちだけでやる」

「下がっていろ」

 と言いつづける、ローザヴイとヘルブラオ。

 戦う桃色と水色を見て、赤色がはっとする。

 ルーフスは、二人がそっけない理由を察したようだ。ほかの人を巻き込まないためだと。

 緑色が転がり、青色がひざをつく。

 ローザヴイとヘルブラオは本心を言わず、ただ戦いつづける。

「もしかして」

「そういうことなの」

 自分たちのほうに飛んできた墨を二人に防がれて、ベルデとカエルレウムも理解した。

 桃色へとのびる触手をパンチで振り払って、赤色が叫ぶ。

「おれたちだって、気持ちは同じだ! 戦いを終わらせよう!」

「同じだと?」

 墨が飛んできて、槍と矢が全て落とした。

「誰も傷つけさせない!」

 ルーフスの言葉で、五人の気持ちがひとつになる。

 そのとき、スカーフから声がひびく。

「よし。みんなの武器をひとつにするんだ!」

 精霊ルミの指示どおり、五人が集まる。いつつの武器を合体させ、現れたのは巨大な砲身。

 五人で構える。

「ヴァルコイネンシュート!」

 飛び道具が放たれた。狙いはひとつ。

 イカベイトに光が直撃。

「そ、そんなぁ」

 爆発が起こる。

「くっ。ヴァルコイネンめ」

 サビレーは撤退していった。


「これからよろしく」

 装備そうびを解除したルーフスが握手を求めて、応じられなかった。

「ちょっと」

「先が思いやられるわ」

 ローザヴイがかすかに笑ったのを見たのは、ヘルブラオだけだ。

「慣れれば、な」

「どういう意味だ?」

「もういいだろう。帰るぞ」

 歩き出したローザヴイとヘルブラオを、ルーフスたちが追いかける。

「仲よくしたほうがいいと思うよ」

 宙に浮く光のかたまり、精霊ルミが意見を言った。

 二人は、まだ完全に気を許してはいないようだ。

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