第3話 タコナイトの海
クライダル軍団の要塞の中。
「やられたうえに、ヴァルコイネンが増えちゃったわ」
メゲの報告を聞いても、リーダーのクライダルは機嫌を悪くしない。
「ふはははは。それでこそ、だ」
「どれ。ワシが行きますかな」
濃い青を基調とした色で、鼠のような意匠をもつ魔族は、重い腰を上げた。
ベコムの提案は受け入れられ、次の行動に出る。
「来なさい、イモータル。いつもより多くシャドウを作るのです」
ベコムが呼び、黄土色を基調としたイモっぽい魔物が現れた。
「はい、はーい」
返事は1回。よい子のみんなは、イモータルの真似をしてはいけないのだ。
いつものように自分の体の一部をちぎっていくイモータル。すぐにばらまいた。
硬い床から現れたのは、灰色の魔物15体。
イモータルは、みずからの細胞を増殖させて兵士を作り出すことができる。
鳥のような意匠をもつ魔族が、椅子に座ったまま右腕を動かす。
「これを
クライダルが、戦地へとおもむこうとする部下に手をかざし、オーラを発した。
「光栄にございます」
クライダルは、人間の心の闇から魔物を作り出す能力をもつ。その一部をベコムにわけ与えたのだ。
「お手並み拝見、ね」
「真似か? 趣味が悪いぞ」
メゲとサビレーの会話に、笑い声が返される。
鼠のような魔族は、シャドウを引き連れ、そそくさとその場をあとにした。
ザパンの町の南。海に近い。
「クライダル軍団だー!」
「あっちいけ、シャドウ」
そのとき、人間たちの希望の星、ヴァルコイネン参上。
「待て!」
「よし。いこう」
「
光がはじけ、三人のスカーフへと姿を変えた。赤い服の男にはグローブが。緑の服の男には槍が。青い服の女には弓矢が与えられた。
ルーフスたちの決めポーズを、余裕の表情で見守る魔族。
「予定調和ですな」
ベコムは高みの見物をしていた。
パンチがうなる。シャドウが上空に打ち上げられた。爆発する。
槍がほとばしる。シャドウが水平に吹き飛んだ。大きな音がとどろく。
弓がしなり、矢がはしる。シャドウが転がった。光が炸裂。
シャドウはあまり強くない。あっさり倒されていく。
その隙に、濃い青を基調とした魔族は動いていた。
「こいつなんか、よさそうだねえ」
ベコムが人間に手をかざし、タコのような魔物を作り出した。その名はタコナイト。
触手がうなる。
「タコ、ナーイト」
「なんだ、あいつは」
「新しい魔物が」
タコナイトは一目散に逃げ出した。
「お、おい」
「追いかけよう」
「あんた、何してるの?」
「ワシはベコム。ワシを気にしている暇があるのかね?」
新たな魔族を見つけるも、まずは魔物の退治が先決。ヴァルコイネンが走りつづける。
そして、ベコムは戦わなかった。のんびりと追いかけっこを見つめていた。
さらに走りつづけるタコナイト。追いかけるヴァルコイネン。
ルーフスたちが差を詰める。磯の香りがただよい始めた。
「しまった。水ね」
カエルレウムが気づいたときにはすでに手遅れ。と、思われた。目の前は海だ。
「てえいっ」
飛び込む前に、タコナイトは蹴られてしまう。ローザヴイに。
「ひ、ひどいぃ」
ヘルブラオは剣で追撃した。
「自分たちのやってることを棚に上げて、よく言う」
二人が加勢にやってきたのだ。
ローザヴイとヘルブラオは、ルーフスたちに構わず戦いを続ける。
「ちょ、ちょっと」
「これじゃ、連携できない」
「話を聞いてくれ。二人とも」
三人の言葉などどこ吹く風。まったく攻撃は止まる気配がない。
桃色と水色が攻撃を織り交ぜ、魔物は吹き飛んだ。
ちょうど目の前に転がってきたタコナイトに、ベルデが攻撃を加えた。
期せずして、連携の形となる。
「いまだ!」
「ふしゅうっ」
ルーフスのパンチとカエルレウムの矢が止めを刺す。タコナイトは海の手前で爆発四散。
どさくさにまぎれて、ベコムはすでに姿を消していた。
「助かったよ。ありがとう、ローザヴイ」
「礼を言われることはしていない」
ロングヘアはなびかない。ルーフスに対して、優しい言葉はかけられない。
「ヘルブラオも、ありがと」
「ふっ」
カエルレウムにいたっては、鼻で笑われてしまった。
「まあ、いいからさ。これからよろしく」
「断る」
「俺もだ」
ルーフスが差し出した手に、二人の手が差し伸べられることはなかった。
「せめて理由を教えてよ」
「必要ない」
話をしても、のれんにうでおし。
「やっぱり、ぼくには協力はムリだとしか思えない」
「それでいい。いくぞ」
「ああ」
三人は、頭を悩ませていた。
「ちょっと待ってくれ」
「なんだ」
「街の人を助けに来なかったのは、なんでだ」
「必要ないからだ」
それだけ言うと、二人は去っていく。
「ルミの遺跡の力を使う、同じ仲間でしょ」
「まだ、亜人のほうが物分かりいいぞ」
ローザヴイとヘルブラオには、どういうわけか戦い以外でも反発されていた。
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