第2話 カニカピラの背中

 金属ではない。何か異質な物で作られている部屋。

 ここは、巨大な要塞の中。

「クライダル様」

「構わん。話せ」

「はっ。遺跡の力を手にした人間たちがいます。ヴァルコイネンを名乗る三名が」

 報告したのはサビレー。熊のような意匠をもつ、こげ茶色を基調とした魔族だ。

 クライダルは、椅子に座ったまま鼻を鳴らした。

「たった三人で、何ができる」

「次はワタシにやらせてよ」

 と、メゲが言った。

 青緑が妖艶ようえんに動く。主に対する敬愛は、サビレーほど感じられない。

「よかろう。行くがよい」

 鳥のような意匠をもつ男が命令を下した。猫のような意匠をもつ女が従う。

「どうなりますかな」

 ベコムが表情をゆるめる。鼠のような男は、ほっほっほと笑った。

「来て、イモータル。シャドウの出番よ」

 メゲの言葉で、黄土色を基調としたイモっぽい魔物が現れた。

「わかってますよー」

 慣れた様子で自分の体をちぎっていくイモータル。すぐにばらまかれた。硬い床から現れたのは、灰色の魔物9体。素手と剣と槍のタイプがいる。

 イモータルは、みずからの細胞を増殖させて兵士を作り出したのだ。

 クライダルが口を開く。戦地へとおもむこうとする部下に手をかざし、オーラを発した。

「これをさずけよう」

「あら。ありがと」

 クライダルは、人間の心の闇から魔物を作り出す能力をもつ。その一部を貸し与えることができるため、メゲに託したのだ。

 メゲが、シャドウを率いて床の転移陣に乗った。怪しくうごめく。一瞬で姿を消した。


 ザパンの町の外れ。公園。

 ルーフスとベルデは、生身で戦っていた。

「まいった」

「武器を使ってないからな。こんなものだろう」

 ベルデに手を差し伸べるルーフス。

「次は、わたしね」

 やる気満々のカエルレウム。だが、期待どおりの返事は返されない。

「疲れたから、休憩だ」

「右に同じ」

「なによ、もう」

 精霊ルミは何も言わず、ただ光をたたえて浮かび続けていた。


 とある深い山の中。

 ヴァルコイネンの活躍を聞き、二人の若者が遺跡の深部を目指していた。

 ルーフスたち三人が力を手にしたのとは別の遺跡だ。

 中は迷路のようになっていて、どこまで続いているのか先が見えない。迷宮の中を一歩、また一歩と確かな足取りで進んでいく若者たち。

「大丈夫か? ヘルブラオ」

「それはこちらのセリフだ。ローザヴイ」

 陰鬱いんうつとした匂いが立ち込める中、若者二人は、ついに最深部へとたどり着いた。

 そして、光のかたまりに出会った。


 ザパンの町の西。

「うひー」

「よせ。近寄るな」

 人間たちが何人か倒れているそばで、戦いは始まっていた。

「今のうちに、逃げて!」

 戦っているのは、普通の人間ではない。かといって、亜人でもない。

 光を放つスカーフがなびき、灰色の魔物が爆発していく。

 赤・緑・青。シャドウと戦うヴァルコイネン。

 この前とは違う魔族を見つけ、赤色が声を発する。

「何者だ!」

「ワタシはメゲ。頑張りなさいよ。シャドウ」

 女性的な姿態したいながら、どこか威圧感を感じさせる魔族。

 メゲは戦わない。戦いなどどこ吹く風で、何かをみつくろっているようだ。

「こいつにしましょ」

 倒れている大男に、猫のような手がかざされた。闇のオーラが怪しくうごめき、もやもやしながら実体をともなっていく。

 クライダルから授けられた力で魔物を作り出したのだ。その名は、カニカピラ。

「カニ、カピラー」

 シャドウを全滅させて、ルーフスが言う。

「カニか」

「ウソ。矢がきかない」

 カエルレウムがなげく。背中の甲羅が硬いカニカピラ。うまく攻撃をやり過ごしていた。

「横にしか動けない、ってわけでもないのか」

「音が鳴る。楽器を叩いてるみたいだ」

「お前も演奏してやろうかぁ」

 グローブも槍も、背中で受けられてしまう。

「メゲに背を向けて戦うわけには」

 苦戦する三人。すると、見慣れぬ二人がやってきた。

 その姿は。

「やれやれ」

「この程度の敵に苦戦するとは」

「そのスカーフ」

「新たなヴァルコイネンね」

 だが、二人は否定する。

「私はローザヴイ。ヴァルコイネンなどではない」

「俺はヘルブラオだ。右に同じ」

 桃色のローザヴイは、ブーツを武器にしている。キックを放ち、魔物の体勢を崩した。

 水色のヘルブラオの武器は剣。正面から斬りかかり、魔物にダメージを与えていく。

 見事な連携だ。

 スカーフに変化している精霊ルミが、補足する。

「西の遺跡で力を手にした、仲間だよ」

「連携して倒そうぜ!」

 嬉しそうなルーフスの提案は聞き入れられそうにない。

 ローザヴイとヘルブラオは、まるで協力する気がないらしい。

「なんとぉ」

 二人の連携がえる。同時攻撃でカニカピラは爆発した。

 だが、メゲは落ち着いている。

 あっさりと魔物が撃退されたことにうろたえる、ベルデ。

「ぼくらのほうが先輩なのに」

「あらら。じゃあね」

「待て!」

 逃げるメゲを追いかけ、街の外へと姿を消すローザヴイとヘルブラオ。


 装備そうびを解除する三人。

 精霊ルミも、光のかたまりに戻った。

 追いかけるタイミングを逸したルーフスたちは、街の片隅にいる。

「きっとわかってくれる」

「いや。あいつらは信用できない」

 ルーフスは楽観的だ。対照的に、ベルデは懐疑的。まったく二人を信用していない。

 カエルレウムが二人のあいだに入る。

「まぁまぁ。今回は助かったんだから。ね」

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