旋風炎陣ヴァルコイネン
多田七究
第一章 精霊ルミ
第1話 エビデンスの罠
異世界グレイティス。
そこには、あまり科学の発達していない中世のような街が広がっていた。
人間だけではなく、動物が人になったような亜人もなかよく暮らしている。
ここは、ザパンの町。まだ寒さの残る季節。
「なんだ、こいつらは!」
暴れる灰色の
人に近いにもかかわらず、植物や昆虫などの部分が色濃く出た外見をしたモノがいる。それが魔物だ。
とつぜん光がほとばしり、ジャガイモのような魔物が次々と倒れていく。
かがやくスカーフと武器を身につけた三人の若者が、呼吸をそろえる。
「旋風炎陣ヴァルコイネン参上!」
ヴァルコイネンが現れるすこし前。
巨大な要塞の中。
紫色を基調とした鳥のような意匠をもつ男が、椅子に座ったまま部下へ指示を出す。
「なんとしても、あれを手に入れるのだ」
「クライダル様。このサビレーにお任せを」
うやうやしくひざをついたまま、その者は主の言葉を待っていた。こげ茶色を基調とした熊のような意匠をもつ男は、屈強な体つきをしている。
魔物ではない。彼らは、魔族と呼ばれる。強い力を持つ者たちだ。
「まぁ、いいでしょ」
「そうですな。じっくり見物させてもらいますか」
青緑を基調とした色で猫のような意匠をもつ魔族と、濃い青を基調とした色の鼠のような意匠をもつ魔族はサビレーに出番を譲った。その名は、メゲとベコム。
「よかろう。やってみよ」
「はっ。来い、イモータル。シャドウを作り出せ」
立ち上がったサビレーの言葉で、黄土色を基調とした、植物のイモっぽい魔物が現れた。
「わっかりましたー」
おどけた言葉とは裏腹に、自分の体の一部をちぎっていくイモータル。そして、ばらまいた。
硬そうな床から現れたのは、灰色の魔物が9体。
イモータルは、みずからの細胞を増殖させて兵士を作り出したのだ。
「待て」
戦地へとおもむこうとする部下をクライダルが制した。手をかざし、何かを発する。
「このお力は」
みなぎる闇のオーラ。だが、サビレーには何が起きたのかまだ分からない。
「魔物を作り、駒にするがよい」
クライダルは、人間の心の闇から魔物を作り出す能力をもつ。その一部をサビレーに貸し与えたということを、幹部たちが理解した。
サビレーが、シャドウを率いて人間のすみかへと向かう。
「うわーっ」
「たすけてくれー」
クライダル軍団に、人間たちは手も足も出ない。
「ここは任せて、早く行け!」
年配の男性にうながされ、若者が東へ走る。街から出ても振り返らずに。
なんとか、森の中の遺跡へと逃れた若者。そこにもう二人やってきた。
「伝承を知っているのは、これだけか」
赤い服の男が、残念そうにつぶやいた。
「仕方ないさ。遺跡の名前すら忘れられてるし」
緑の服の男は、冷静に状況を見ていた。
「とりあえず、自己紹介しましょうよ」
青い服の女がポニーテールを揺らした。その提案で、みなが名を名乗る。
「おれはルーフス」
「ぼくはベルデ」
「わたしはカエルレウム。レウムでいいわ」
こうして、三人は出会った。
遺跡へと足を踏み入れるルーフスたち。
名前も忘れられた遺跡の深部までやってきた。
とつぜん、まばゆい光が辺りを照らす。宙に浮いているそれは、精霊だ。
自然エネルギーをつかさどる化身と言われている精霊。光のかたまりにしか見えない。三人とも見るのは初めての様子。
「事情はだいたいわかってる。ボクはルミ。なんとかするよ」
ルミと名乗る精霊は、力を貸してくれると言う。力の使いかたと、
大気中にジンという魔法のもとのようなものがあり、それを使って強い力を得られるのだ。
「ちなみに、遺跡の名前はヴァルコイネンっていうんだよ」
「三人のチーム名は、旋風炎陣ヴァルコイネンでどう?」
「今は時間がないから、そういうのはあとで、ね」
「なんでもいいからいくぞ。ベルデ! レウム!
光がみっつに別れ、三人のスカーフになった。
そして、それぞれの武器も手にしていた。グローブと槍と弓矢。
ここから反撃が始まる。
旋風炎陣ヴァルコイネン参上!
ザパンの町の東側へと戻ってきたルーフスたちは、クライダル軍団のシャドウを次々と倒していく。攻撃力のほか、防御力と素早さも上がっているためだ。
「はあっ!」
赤い両腕から光の拳がうなる。ゆれるスカーフ。左のジャブから右ストレートを叩き込み、シャドウが吹き飛ぶ。爆発した。
「いけるぞ」
緑の
「ここね!」
青には弓矢がある。距離を取っての狙い撃ち。槍を持つシャドウがきりもみ状態で飛んでいく。爆発した。
「ヴァルコイネンか。ふっ」
熊のような意匠をもつ男は、腕組みをしたまま悠然と構えていた。ルーフスがにじり寄る。
「お前は何者だ!」
「ワレはクライダル様のしもべ。サビレー。クライダル軍団の目的は、世界の統一だ」
「なんだって」
ベルデが一番驚いている。
「ワレが相手をするまでもない」
サビレーは、近くで倒れる人間に手をかざす。
闇のオーラが人間からあふれだし、実体を得ていく。
なんと。心の闇が実体化し、エビっぽい魔物になったのだ。その名はエビデンス。
「エビ、デーンス」
もちろん、すぐ戦闘になった。
パンチも槍も弓矢も当たる。
「こいつ、弱くない?」
カエルレウムの言葉どおり、エビデンスはあまり強くなさそうに見える。
「おっ。あったぁ。ここからだぞ、お前らぁ」
魔物が後ろ向きになる。すごい速度で走った。向かった先は、噴水。
エビデンスは水中でないと実力を発揮できないのだ。
「こんなことで!」
「なに?」
水に入った魔物は、攻撃力も防御力も上がっていた。
しかし、水に体を全部つけるには横になるしかない。そのためほとんど攻撃できない。
「みんな。気をつけて」
スカーフからルミの声がした。
「そうか。水ね」
カエルレウムが提案し、ルーフスとベルデが同意した。
三人でエビデンスを持ち上げ、噴水の外に出す。
「しまったぁ」
水を失ったエビデンス。さらに噴水から弓矢で追い出しつづけ、そこを槍で突く。
「いまだ!」
「ぐおぉ」
最後はグローブで仕留めた。みっつのスカーフがはためくなか、爆発が起こる。
「ふん。ヴァルコイネンか」
サビレーはやはり戦わず、去っていった。
街のかたすみでほっと一息つくルーフスたち。
スカーフと武器が消え、普段の姿に戻った。
精霊ルミも、元の姿に。光のかたまりへと戻り、宙に浮きつづけている。
「あの幹部。サビレーは、なんで戦わなかったんだ」
「気になるわ。気をつけましょう」
ベルデの不安に同意するカエルレウム。
「まあ、いまはのんびりしようぜ」
ルーフスは、つかの間の日常を宣言した。
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