第20話 世界内存在

 リンクでも学校でも、可憐は口をきいてくれなくなった。

 可憐と話さなくなって、わたしは気付いた。わたしにはマジで友達が一人もいなかった。

 いつも二人でいたから、別れたら一人ずつになるはずなのに、可憐の方には自然と歩み寄ってくる女の子たちがいた。いつの間にか、可憐は一番目立つグループにするりと包摂された。

 一週間、わたしは誰にも声を掛けられなかった。徹頭徹尾、わたしは一人きりだった。

 まるで、わたしなんか存在してないみたいに世界は動いていた。

 幽霊みたいだと思った。

 どこにも属さず、地上を浮遊している。

 一歩につき足一個分を正しく差し出せないわたしは、地にうまく足を付けられない。

 人だかりの向こうは、あまりにそのままだった。

 わたしが無視されようとされまいと、地上の物質性には微塵も影響が無かった。


 世界は世界としてただそこに在る。

 机も、窓も、空も、道も。

 それは、わたしが死んだ世界。

 わたしが死んでもそのままの世界を、わたしが見ている。


 でも、視界の最遠点には洵がいた。

 その一点を定めれば、わたしは蘇る。

 反転した最遠点で、再び世界が発生する。


 目を合わせることも、話すことも、触れ合うことも必要ない。

 ただ、いてくれさえすればいい。

 何も問題は無いのだった。

 洵さえいれば、何も。


「あんたついにいじめられるようになったのね」

 いかにも嫌味ったらしく彩香は言った。

 別に、とわたしはため息をつく。よく話し掛けてこられるなと思う。


「てか、あんたこそ一人じゃん。シオリはどうしたの」

「シオリ? 誰それ」


 一瞬、呼吸が止まった。


「……ここで。洵に、ラブレター渡そうとしてた子だよ。おかっぱで、やせてる」


 下駄箱の前、喪服の影がフラッシュバックする。


 彩香は訝しげに眉をひそめた。


「そんな子知らないけど。……あんた、アタマ大丈夫?」


 黒いスカートがひるがえって、下駄箱の陰に消えた。

 画面をアナログに切り替えた時のような砂嵐が、視界を遮った。


 世界にかげりが差す。

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