第28話 Humanity
俺は相変わらず四回転が決まらない。
転びすぎて、ついには下半身全体の感覚が鈍くなってきた。
「慣れてんじゃないぞ!」
岩瀬先生の怒号が飛ぶ。
「もっと身体を締めろ!
痛みは、いつしか
重力が俺を地上へと縛る。
跳ぶんじゃない。
俺は、飛びたいんだ。
一、二、三、四回転。
足元に閃光が走る。
回った、と思った。
しかし、着氷と同時に足首が捻れた。
トウピックが氷に突き刺さり、先の軌道へと抜けられなかったのだ。
歩けることには歩けたが、どんどん足首が腫れてきて靴を履いていられなくなった。
真っ赤な痛みが身体を支配し、青ざめる
すぐに練習を中断して、病院へ向かった。
診断は
精密検査のため、大学病院のスポーツ整形外科に紹介状を書いてもらった。
『痛いのと怖いのは違う』
自分の言葉が、牙を
せめぎ合いが皮膚の下で渦を巻く。
痛いのは、怖い。
軽い捻挫でよかったなんて喜べないほど、こんなにも怖い。
あと少し
奥歯が震えた。
帰途、ハンドルを握ったまま岩瀬先生は呟くように言った。
「ジャンプは跳躍であって、飛翔ではない。俺達に翼は無いんだ。……だが、四回転。確かに回りきっていた。よく降りた」
心象風景を読まれていた。
無性に泣きたい気持ちだった。
「……着氷に失敗したジャンプは、降りたとは言いません」
「次は、本当に降りればいい」
翼が欲しい。
あなたは、欲しいと思ったことは無いのか。
「……無いと言えば嘘になるな。だが本当に欲しかったのは、スケートを永遠に続けられる身体だ」
そうだ。
この人は怪我で引退を余儀なくされたんだった。
それも、キャリアのピークの真っ只中で。
スケートを奪われたら、俺は何を支えに生きていけばいいのか。
いや、違う。
何を、生きればいいのか。
そんな可能性も未来も、すぐ側で暗い口を開けて待ち構えているのに、その
手放したくない。
俺は、スケートを。
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