第15話 I won't.

 何気なくロッカーを閉めたつもりだったが、物凄い音が響いて、取っ手のプラスチックが床に転がった。


 しまった、と思った。

 無意識で物に当たり散らすなんて。


「おー、こわ。器物損壊」

 飄々ひょうひょうとした声に、俺は振り返る。


「……晴彦さん」

 嫌な所を見られた。

 でも、一番マシな人でよかったとも思った。


「最近荒れてんね。芝浦のこと?」

「別に、関係ないです」

「分かりやすいね~。でも、お前、前よりずっとイイ顔になってるよ。男子三日会わざれば、だな」

 晴彦さんは含みのある流し目で、ニヤリと笑った。


「どういう意味で言ってるんですか?」

「んー。贅肉ぜいにくが取れた?」

「……元々太ってませんけど」

 晴彦さんは吹き出す。

「比喩だよ比喩! カメラ映えするかどうかは知らんけどな。連休中にアイスショー出るんだろ。あれ、地上波放送あるぜ。顔の傷は治しとけよ」


 ……イイ顔? どこがだ? 

 鏡の中の俺は、一言で言えば、凶相。

 左頬には赤黒いあざが残り、唇の端にはひび割れたかさぶたが張り付く。


 だが、何よりも目。

 濃く重なったクマに、不釣り合いなほどぎらついた瞳。


『ボクシングでも始める?』

 無邪気な笑い声が頭上を飛び回る。


 ……お前、最近うるさいぞ。

 舌打ちをして、鏡に背を向けた。

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