約束 Chapter 1 - 4




 〜Chapter 1〜


 フェーバンという街にて。

 ホテルの部屋で待つ白明のもとに、一通の手紙が届いた。

 ちょうど一つの短編小説を読み終えたところだった。七つの短編が収録されているなかの、五つ目まで読み終わったところである。事件も起こらなければ、物語展開の起伏もない小説だったが、そういう話を白明はときおり読みたくなって本屋で見つけてくる。そういう本を読んではいつも「ふーん」と特にこれといった感想ももたずに、本を閉じ、それから彼は何かするべきことをする。するべきことがない時はそのまま寝転ぶ。白明はこのとき本を閉じて、夕食を食べようと思い至った。二階の広間にレストランが出ているのだ。特にお腹は減っていないがとにかく何か食べておこうと立ち上がったときに、扉がノックされた。コンコンと綺麗な音。出てみるとボーイさん。


 手紙は軌仁堂きじんどう漢代かんだいからだった。漢代とはこの街に住む有名な壺職人で、彼についてはよく知らない流れ者の白明だったが、とある仕事を募っていたのを見つけ、白明は飛びついて応募した。

 その仕事というのは、彼、軌仁堂漢代の作った壺を、荒野を隔てた隣の街チェッカまで届けるのを手伝う、というものであった。

 端的に言えば護衛。

 壺自体は彼の弟子が運ぶらしい。未知ではあるが、白明は自分の気性に割とあった仕事だと思いやってみることにした。


 しかしすぐ採用という運びではなく、様々な試験があった。応募した若者は白明以外にも数人。彼らの中から、いったい誰が一番適切か選別するのだ。

 採用されるのはその中から一人らしいのだが、手紙を見て一安心した。

 その試験には白明が通っていた。

 その短い手紙には、明日すぐに来て欲しい、とあった。あいにく明日は(明日も)何の予定といってない。場所と時間、白明はきちんと確認して、手紙は机に置く。その上にさっきまで読んでいた本を置いて落ちないようにした。それから彼は夕食に向かった。



 広間にはレイが先に来ていた。彼女が一人で食事をしていたので、白明は彼女と同じテーブルに座り、仕事が入ったことを伝えた。すると彼女は、とくに感情を見せず「よかった」と拍手をしてから、今度は鼻にシワを寄せたヤな表情をして見せ、


「私には何かめんどくさいのが付きまとってんの」

 と言った。白明がメニューを頼み終えると、

「まあ、頑張りな」

 とも言う。


「めんどくさいの?」

「そう、街角で歌ってた人なんだけど、声かけられてさ」

「ご愁傷さまだね。けれど君って、何でそうやって、声をかけられるのかな」

「目があっちゃったのよ。あんたあんまり目見ないでしょ」

「まあ」


 白明はそう答えながらもなお食事をするレイの手を見ていた。というのも、指摘されてから目を見るのもどこか気恥ずかしい。それで行き場のなくなった視線を、レイの手に当てたのだ。

 レイの手は白い。そのうえ長い。しなやかに動くその指で、上品にナイフを使ってはステーキを口にはこぶ。何となくコウノトリを連想した。


 白明にはピザとグラタンが混ざったような、よく分からない料理が届いた。


「なによそれ」

「わからないけど、目についたから頼んでみた」


 先に食べ終わったレイは白明を待たず部屋に帰った。残された白明はそのよくわからない料理を美味しく食べた。が、ほんの三口でお腹はふくれたので、後半は少々苦痛を伴った。水を飲んで、深呼吸して、どうにか食べきる。いつものことだが、彼は食べ物を残すことはしなかった。






 〜Chapter 2〜


 日が変わり、早速彼は指定の場所へ向かう。

 清潔な無地のワイシャツを着て、サスペンダーで筒状のズボンを吊り、靴のなかには長い靴下を履く。左肩にホルスターを掛け、愛用の銃をしまう。ズボンの中にも一丁隠す。それからトレンチコートを羽織り、ポケットに昨日読んでいた本を入れる。もしも読める時間があれば、そこで読もうと軽い気持ちでいた。

 彼がこれほど本に興味を持つことは珍しい。どこかこの本と波長があったのだ。


 到着すると、漢代かんだいの弟子だというリン・ノーウェイという男が待っていた。

 二十代後半で短く切った髪はきちんと分けて、なでつけてある。切れ目にすっと通った長めの鼻。まだキレイな作業服を着ており、袖を肩のところまでめくっている。

 風にさらすその腕は細い。表情や、立ち姿がどこか、いかにも職人っぽい無頼な感じに憧れているが、芯がどうしても真面目、という雰囲気だった。


「少し確認してもいいか」

 と高圧的にノーウェイは手をコネコネしながら言った。念入りに手洗いしているように、手をコネコネさせながら話すのが癖なのだろう。彼は本人確認や、大まかな仕事内容、それから白明の体を触って持ち物の検査などをした。


 リン・ノーウェイ。今回漢代の壺を運ぶことになっている彼は、一度会社に勤めていたのだが、ある日、営業で訪れた工芸職人の仕事振りに感動し、その瞬間に勤めていた会社を辞め職人に弟子入りをすることに決心し、それを次の日には実行した男である。

 辞表を出した際に「これから何をするつもりだ」と上司に聞かれたとき、まだ真面目一辺倒だった彼は、「ええっと、はい。何でしょうね、なにかこう、文化を告げるようなことを、」と答え、その結果上司からは虫を追い払うような仕草でその場を追い出された。その時はまだ、どこへ行き、何をするかなど、全く決まっていなかったのだ。


 さて師匠を探そうという段になって彼は、せっかくならこの街で一番有名な漢代のもとへと志を高くもち、実際その漢代の家を訪ね、三日間頭を下げた。

 そしてその末に、念願の職人見習いとして第二の人生を歩み始めたのだ。


 ノーウェイは足元においていたカバンを取り、そこから封筒を取り出すと、それを白明にわたした。着手金である。白明もこれを受け取りコートの内ポケットに入れボタンをかけた。


「では、」

 とノーウェイは姿勢を正す。「さっそく、仕事を始めよう。護衛・護送の仕事は初めてか?」

「ええ」

「うん。まあいい。馬車が用意してある。そこまで行こう。その前に、ちょっと待っててくれよ、壺を取ってくる。これがなけりゃあなあ、手ぶらで行ってもしょうがないからな」

「はい。ここで待ってればいいですか」

「そりゃ、そうだ。待ってろ」


 と言ってノーウェイはすぐそばの建物へ入った。そして「はい、はい」と奥にいるのだろう人間に頭を下げながら、すぐに出てくる。乗用車のタイヤに似た大きさの小箱を抱えいた。


「さあ、行こう」

「はい」

 白明は彼についてゆく。



 馬車は少し歩いた先にあるとノーウェイは言う。

「今のが先生のアトリエ、そして今から行くのは、」

 と彼は、後ろにいる白明の方を向くために背中をよじりなが歩く。その結果、足元の段差に気がつかずに、ものの見事につまづいてしまい、両腕に抱えている壺の入った木箱を放り投げてしまった。壺の入った木箱は、宙を、なんの支えもなく移動してゆく。白明は声も出せない。


 しかしそれは奇跡的に、ちょうど前から歩いてきた女性が受け止めた。

「重っ」

 と彼女は言う。その彼女とは、レイだった。


 もちろんノーウェイは彼女を知らないが、白明は少し反応する。


「あら、今から、言ってた仕事?」

 とレイも白明だと気づいたよう。

 白明はうなずく。

 と、突然レイの後ろから、派手な赤色のシャツを着て、ツバのまっすぐなキャップ帽をはすに被った、陽気な男が出てきた。


「よお」


 と男は腕を上げる。

 するとノーウェイもそれに対して、フンと鼻で笑いながら腕をあげ、そして二人は華麗にハイタッチを決めた。パシン、と音がなる。


 白明とレイの声が合わさる。

「知り合いですか」

「なに、知り合いなの」

 白明はノーウェイに、レイはその男に聞いたのだ。


「いや、知らない」

 聞かれた二人は声を揃えて言った。


「ちなみに」とレイ。「こいつだよ、昨日言ってたの」

 レイは壺の入った木箱をノーウェイに返しながら言った。


「俺か? 俺のこと、噂しちゃってたか?」

 とレイに親指で刺された彼は意気揚々と、「俺は、世界一の天才ラッパー、いつもありったけのパワー、俺がそう、アンディ様さ」

 ラップ調で自己紹介をする。しかし、それが終わる頃にはノーウェイは歩き始めていた。壺を受け取り自身の使命を思い出したのだ。


「行くぞ、こんな男に構っている時間はない」と言った。

「それはねぇぜ、ブラザー」とアンディは掌を空に向けた大袈裟なポーズをして見せた。

「お先に失礼します」と白明もノーウェイについてゆく。

 レイはいつの間にかいなくなってた。

「それもねぇぜ、ハニー」アンディは力の抜け切った声で一人呟き、頭を抱えた。

「俺様一人、置いてけぼりかよ」

 風に転がされた空き缶が、彼の前を転がっていった。






Chapter 3


 馬車は馬車停に停まっている。二人は到着した。


「へい! 待ちやしたぜぃ」

 御者台から威勢の良い声が降ってくる。


 その声に負けじとノーウェイも声を張り上げた。

「今日は頼むぞ」


「へい!」

「荷物は割れやすいからな!」

「へい!」

「道はわかってるか!」

「もちろんでやす!」

「よろしい」

 と最後だけはごく普通並の声で言う。


 扉はすでに開いていた。まずノーウェイが乗り込む。焦げ茶色の、木の箱のような馬車で、扉のところに開閉が可能な、どうにか二人が外を見れるくらいの小さな窓がついていて、その窓には赤黒いカーテンがかけられている。ノーウェイが入るだけで、骨のきしるような音がして、馬車は歪んで傾いた。

 中へは台を使って入る。そうでないと、足が届かないくら高いのだ。


 白明が乗り込もうと、足を台に載せると、御者から声がかかった。

「あんたが、護衛でやすか」

 注意深い低まった声だった。ノーウェイと話していたときとは、とんと違う。それだけに、声がかかって数秒、白明は自分に話しかけられているのとは気づかなかった。

 何か声が聞こえて、頭のなかでその声が何度か繰り返されるうちに、それが自分に向けられた言葉であること、そしてその内容までもが理解された。


「はい」

 と白明は上を見上げて、まぶしさに目を細めながら答えたが、それに対する応答はなかった。御者は一貫して前を向いていた。

 聞こえなかったのかもしれない。けれど、そこであえてもう一度大きな声で言い直す白明ではなかった。彼は少し待ったが、結局なしのつぶてだったので乗り込んだ。はなから彼の空耳だったのかもしれない。


 馬車は四人乗りだった。それに気づいた白明が、「護衛を三人雇わないんですか」と聞くと、ノーウェイは「その三人で手を組まれると厄介だ」と答えた。

 それと同時にすぐ馬車は出発する。二人は向かい合って座る。中は膝がひっつくほど狭かった。ノーウェイはそれに多少嫌な顔をして、白明とは斜向かいに座り直した。扉に近い方だ。フェーバンの街中の石畳を走るうちは、ガラガラと高い音が鳴り、小刻みな振動が尻から伝わった。

 二人は特に話すこともなく、街を出るのを待った。

 白明が実際に責任を負うのは、街を出て、荒野に入ってからである。

 これからどういうことになるのか、予想も立てられなかった。




 あれだけ威勢よく登場した御者には裏がある。

 仕事を頼まれていた本当の御者は、馬車が出発したこのとき、馬車停のすぐそこにある共同便所で縛られていたのだ。手足と口を縛られて、服も盗られ下着飲みの格好。

「んーー……んーー」

 とうめいていた。

 つまり、今馬を操っている彼は偽物である。雇われた御者ではないのだ。


 そんなこととはつゆ知らず、二人は馬車の心地良い揺れに身をまかせ始めていた。






Chapter 4


「あのう」と、街を出て、荒野の砂の上を走る馬車の中、白明が口を開いた。

 砂地を走る馬車は、ガサガサと砂と木材がこすれる、耳に良い音がする。ときおり石を踏んで大きく跳ねる以外は、振動も石畳の道を走る時より、悪くなかった。

「そちらの壺って、それほど高価なものなのですか」


「はあ? なにを言ってるんだ。おまえ、軌仁堂漢代先生を知らないのか?」

 ノーウェイが呆れたように言う。

 その勢いに、白明は少し悪く思った。調べてくればよかったし、知らずに仕事をするというのは無神経だとも思った。

 けれど彼は知ったかぶるわけでもなく、正直に言った。

「ええ、実はあまり。旅の道中に立ち寄っただけですので」

「それにしても、普通知ってると思うけどな。まあ、知らないってんなら、教えてやろう」


 ノーウェイは軌仁堂漢代の壺がどれほど凄いのか、跳ね上がる馬車に体を揺すられ、たびたび噛みながらも説明した。また、両手をこねるような仕草をしていた。


「まず、漢代先生は世界クラスの壺職人だ。なにがすごいかって、それはだな、漢代先生の作る壺は、水を入れてりゃその水はどんどん澄んでゆくってもんだ。先生はな、特別で完璧な造形を、その霊感から作り上げる。その水を飲めば健康にもなろうし、精神も落ち着く。そしてその造形は美しく、人の精神を安定させるし、景色にも美しく調和する。月の光に見事に輝く。それだから、世界中から先生の壺がどうしても欲しいと、富豪たちがこぞって大枚はたくんだ。


 実はな、隣の王国の皇太子さまも気に入って二つ買った。世界で彼の壺を二つも手にしたのは、あの皇太子さまのみ。それも、先生の壺というのは、他を世界中探しても、十いくつかしかない。先生は入念にその形を練り上げて、完璧なものが完成しなければ割り、時には何年もかけて一つの壺を作り上げる。それだけ魂を込めているんだ。魂がこもっていない壺は、壺じゃない。先生はそう言っておられた」


 白明は感心する。それは本当に希少で高価だ。彼は気を引き締めた。


「それは、工芸品、というには恐ろしいくらい、何かすごいものがありますね」

「それどころではないよ。あの先生はまさに奇跡さ。きっと歴史にだって残るだろう、いやきっとではない、必ずだ」


 青と茶色に二分された景色。空と大地。ときおり慰み程度に緑が目に入るが、それだけでも涼しさを感じる。そんな荒野を走る元気のいい古い馬車。午前の空気が優しい風を流している。


 ノーウェイは馬車が走り出してからずっと木箱を膝の上に置いて抱えていたのだが、それにも疲れたのか、隣の空いたスペースにそれを置き、今は一つだけ取り付けられた小さな窓のカーテンをめくり、外を見ている。

 白明からも外は見えた。ノーウェイはこの荒野を、土地だけでなく人も荒れ放題で、なにが起こるか分からない、と説明し、決して気を抜くな、と強く言ったが、白明が見る限り人なんている気配がなかった。どこまで見ても生活ができるような世界には見えない。人がいるとしたら、それは死体か魔女だろう。


 安心できることに、街から街へは川が一本通っており、順路も川からなるべく離れないように走れ、とノーウェイの方から御者へ言ってあったので、もし非常時に行き止まりになっても、水に困って彷徨うことはないのだ。

 水不足は恐ろしい。実際にそれほど切実な水不足の危機に陥ったことは、白明にはなかったが、それが想像する何倍も苦しいであろうことは予想できた。


 二時間か、もしかしたら三時間以上も走ったかもしれない。太陽は高く登っていた。そんな折に、馬車は急に停まった。白明は身を引き締めた。何かあったのだろうか。


「女でやす」

 御者の声がした。

 白明は銃を握る。木のグリップが、手になじむ。


「どこにいる」とノーウェイ。


「馬の前に突っ立って足止めしてきやす。乗せて欲しいと言ってやがりますが」

「うーん」

 ノーウェイが何か考えている。

「一度確認しましょう」

 と白明が提案した。


 するとノーウェイはその考えに賛成したようで、女に窓の前に来るよう指示させた。そして女はちゃんと指示通り移動した。馬の横を通り、窓の前に立つ。ノーウェイはカーテンを開け、彼女を見る。


「なんだ、思ってたより若いな」と言った。


 彼女は十代後半か二十代に入ったくらいの年齢に見えた。白いブラウスと、綿のパンツだけはいて荷物は手提げの鞄以外、なにも持っていなかった。白明はそのことに違和感を覚える。ここは荒野の真ん中だ。なぜここにいるのだろうか。環境の厳しさと、彼女のラフな格好や、その飄然とした雰囲気がどこか異様に思えた。


 そう言うことを考えているのかいないのか、ノーウェイは窓を開けて、

「おい、どうした」と聞く。

「乗せて欲しいの」

 女は言った。変に甘えるわけでも、切願するわけでもない風だ。けれどその言い方が妙に真に迫っていて、少なくとも演技や嘘には思えなかった。

「どこまでだ」

 とノーウェイが続けて質問する。

「街まで」

「チェッカか?」

「ええ、その通り」

 彼女は親指を立てた。


 それから彼女は白明たちの目的地の方を指差した。白明は、彼女とノーウェイの会話の際、ひとときも注意をそらさず彼女に銃を向けていた。そして、今度は白明が聞く。


「なぜここにいるんですか。それだけの荷物で、街から歩いてきたんですか」


 ノーウェイはそう言った白明を一瞥して、それから「確かに」と同じ疑問を覚えたのか、女の方を確認する。

 彼女は答える。


「馬に乗ってきたのよ。でも途中で狼に襲われたの。荷物も、もっとあったんだけど、これだけしか残らなかった。これでいい?」


 白明は今度ノーウェイの方に、小さな声で聞く。

「狼、」

「ああ、いるよ、この辺にはな。この場所は、危険なものならなんでもいる場所だ」

 白明はどちらかというと、彼女を乗せることには反対だった。載せなくて良いと思った。というのも、壺を狙っているかいないか、善人か悪人か、わからない場合は切り捨ててしまえば確実に安全だからである。

 何もリスクを負って助けなくて良い、という考えだった。今は仕事の最中である。これが普段のただの移動中なら、乗せても良いのだが。

「乗せますか? わざわざ乗せることないと思うんですけど」


 するとノーウェイは答えた。

「そんな心の狭いことを言うんじゃないよ君、あれは、ただの弱い女の子だ。もう一人くらいは楽に乗れるよ。そして、もし、またもう一人女の子が困っていても、乗せられるだけの余裕はある」


「四人乗りですからね。でも良いんですか、壺を狙ってるかもしれない」

「あのなりでか。心配しすぎだよ。か弱い女の子じゃないか。あの体躯じゃ、同じ女の子だって襲えない」


 ノーウェイは彼女に乗っていい、と伝えた。そして扉の鍵を開ける。そのまま招き入れようとしたところで、白明は彼を止め、荷物を指摘した。それこそ銃やナイフが入っているかもしれない。


「気にしすぎだよ、護衛君。それは結構だがね、彼女が……、まあ、わかったよ」ノーウェも流石に注意しなさすぎると自分で思ったのか、荷物を御者台に預けさせることにした。


「君、名前は」

「ハルカです」

「ハルカちゃん。悪いがその荷物は、あれだね、この中に入れるには少々大きすぎるもんで、だからそれは、御者台に置いて縛っていてもらおう。大丈夫さ、中に手をつけたり、おっことしたりすることはない」

「ええ、いいですよ」


 ハルカは明るく応える。そして荷物を預けてきてから、乗車席に乗り込んだ。


 そのハルカの様子、雰囲気にノーウェイは完全に警戒心を解いていた。白明もそれほど疑ってはいなかった。でも彼は、そんなに簡単に信用してはいけないと自分に言い聞かせて、彼女の一挙手一投足を注意深く観察した。一応のところ、銃はホルスターにしまておく。見せびらかすのは、失礼もいいところだ。

 ノーウェイが彼女を引っ張り上げる。

 ノーウェイは彼女を自分の隣に座らせた。

 白明は彼女があまりに怖がっていないことがやはり気になった。そういう性格なのかもしれない。けれど、この荒野は、悪行が蔓延ると、試験の時から散々聞いたのだ。注意は解けなかった。

 彼女が乗り込んで、白明の正面に座っても彼は目をそらさなかったどころか、ときおり彼女の目を覗き込んだりもした。



 このとき、この会話、ハルカと馬車に乗る彼らとのやり取りを、岩の陰に隠れたハルカの仲間は、遠くから見守っていたのだった。そうである、彼女はたまたま馬車に拾ってもらえたラッキーな女の子なんかではない。仲間とつるんで、壺を狙っている。演技で、嘘つきだった。

 馬車が再び動き出して、このハルカの仲間も動き出す。見つからないようにちょうどいい距離を保ち、馬車を追いかけ移動するのだった。






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