第49話

「うわ~食った食った。これでしばらくは肉を食わなくてもいいわ」


「肉って食いだめできるものなの……?」


リーシーの店でのパーティーが終わり、自宅であるジャンク屋へと戻ったメイユウとランレイ。


メイユウはお腹がはち切れんばかりに肉を食べたため、若干苦しそうだ。


そのせいで、いつもよりもチャイナドレスの形が崩れてしまっている。


しかし、彼女は部屋に戻るなり、すぐさまチャイナドレスを脱ぎ去った。


ランレイはそんな彼女に慣れているため何も言わないが、最初は驚いたものだとその様子を眺めていた。


「先にシャワー浴びるよ」


「そんないきなり裸になってから訊かないでよ……。もしあたしが先に行くって言ったらどうするつもりなのさ?」


「そのときはそのときよ。つまりはダメならダメで諦めるってワケ。じゃあ、文句ないならお先」


メイユウは着替えとバスタオルを持つと、浴室へと向かって行った。


残されたランレイは、まだ何も言っていないのだが、と思いながらも、そんな彼女の背中を見送った。


「ふう、でもいいか。今日は楽しかったし」


ランレイは、今日のパーティーのことを思い出してた。


リーシーもシェンリアもシャンシャンも。


皆変わり者だが、自分を元気づけるために、わざわざパーティーをセッティングしてくれた。


その気遣いが単純に嬉しい。


ランレイは、パーティーでのリーシーが肉を焼く姿や、立体映像を操作するシェンリア。


さらに、音楽に合わせて踊るシャンシャンの姿が、家に戻った今でもまだ脳内から消えずにいる。


「あ~サッパリした」


「ちょっと早すぎじゃない……」


パーティーの余韻に浸っていたランレイだったが、すぐにシャワーから戻ってきたメイユウを見て呆れてしまっている。


烏の行水とはこのことだと、ランレイはため息をついた。


メイユウはいつも湯からあがるのが早いが、お酒が入っていると特に早い。


「ねえ、服くらいちゃんと着なよ」


ランレイは、メイユウの裸にバスタオルだけを羽織ったあられもない姿に、だらしがないと注意した。


だが、メイユウはやる気なく返事をする。


「いいのいいの。これくらい読者サービスしてあげないとね。あッ、でも湯上りの状況描写がヘタでもわたしのせいじゃないわよ」


「そういう作者イジメはやめろよッ!」


いつものように声を荒げるランレイを見たメイユウは、クスッと笑みを浮かべると、店でもらってきた袋を取り出した。


人間がすっぽりと入ってしまえるくらいの大きな袋だ。


「そうそう。これ、みんなからあんたへって」


渡されたランレイは、早速袋を開けてみる。


その中からまず出てきたのは――。


「これって……メイユウだよね?」


チャイナドレスを着た女性の人形だった。


ランレイがその人形の顔を触ると、突然音声が聞こえ始める。


《これは私がメイユウの助手時代にとても重宝していたものだ。ランレイのために新しくこしらえてみた。よかったら使ってくれ》


シャンシャンの声だ。


ランレイが複雑そうな顔でその声を聞いていると、メイユウはその人形を粉々に破壊し始めた。


腕や足、その頭が狭い部屋の中を飛んでいく。


「あのくっころ武人。またこんなもの作りやがって」


息切れしながら言うメイユウのその背中は、怒りに満ちているものだった。


ランレイは、シャンシャンが次にメイユウと会ったときが心配になっていた。


部屋中に綿わたが飛び交う中、ランレイは次のものを出す。


「あッ! リボンの首輪だ! あとパーカーが入ってる!」


リボンの首輪はリーシーから、そしてフード付きの服はシェンリアからの贈り物だった。


ランレイは、早速それらを身に付けて鏡の前に立つ。


「かわいい……かわいいよ、これ!」


はしゃぎながら鏡の前に立ったランレイは、次第に我へと返っていった。


ここ最近落ち込んでいた自分のためにパーティーを開いて、しかも贈り物までくれた皆。


ここまで気を遣わせて、自分はまるで子供だなと、彼女は俯いてしまう。


「ほら、これはわたしからだよ」


そんなランレイへメイユウから渡されたもの――。


それは一昔前の小さなタブレット型端末だった。


何故こんなものを? と、ランレイが思っていると、メイユウはニコッと笑う。


「これでいつでもどこでも物語を書けるでしょ」


「メイユウ……」


ランレイは気がつくと目から涙が流れてしまっていた。


それは、パーティーをしてもらっただけではない。


贈り物をもらったからだけではない。


機械猫の身体になってからのメイユウとの日々。


これまで起きた出来事。


出会った人やアンドロイド、機械ペット。


それらすべてが、脳から全身に向けて流れていく――。


そういう感覚に襲われたからだった。


「メ、メイユウ……ありがと……。あたし……書くよ……メタルのことも……これまで見たきたことも全部……」


「ああ。もちろん最初に読むのはわたしだからね」


「う、うん……」


そこで二人は、小さな約束をするのだった。


それから次の日――。


朝早く起きたランレイは、早速もらったリボンの首輪とフード付きの服に着替えて、タブレット端末の電源を入れる。


基本的な操作は昨日メイユウに習っていたので、まさにこれから物語を書こうとしていたのだ。


「よし。まずはこのアイコンを起動させてと」


ランレイは、手を画面に合わせるが一向に反応しない。


何度やっても目的のアイコンを立ちあげることができない。


「なんでだよ!? もしかして壊れて、いやそんなことはないはず。だって昨日はメイユウが動かしていたし……あッ!」


ランレイは、どうして操作できないかに気が付いた。


それは、彼女の身体が機械猫の身体だからだった。


メイユウがランレイへプレゼントしたタブレット端末は、生体反応を感知して動かすことのできるもの。


だから当然機械猫の手でいくら触っても反応はない。


そのことに気が付いたランレイは、その身をワナワナと震わせていた。


「わざとだな! わざとこんなことしてぬか喜びしたあたしを笑うつもりだったんだな!」


怒り狂ったランレイは、まだ眠っているメイユウを叩き起こしいく。


寝ているメイユウの上で暴れまわるランレイ。


だがメイユウは、いくら暴れてもいびきをかいていて、まったく目覚めそうになかった。


「いやんアンドレ……もうわたし、飲めないよぉ……」


「うわぁぁぁッ! メイユウ起きろぉぉぉ!」


その数時間後――。


ランレイのタブレット端末には、音声認識で文字が打てる機能が追加された。


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シスターフッド~機械の猫にこんにちは コラム @oto_no_oto

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