第48話

今自分たちが見ているこの景色は、ウォールペーパー·ルームと呼ばれるヴァーチャル技術である。


実際にあるものと区別がつかない想像可能なものをライトレーザ―構造物で作成。


64ビットのカラーイメージを発生させる高容量コンピュータからプロジェクターに出し、店内全体を映している。


さらには現実的な風、排気効果。


広範囲なモデルプログラムは、豊富な種類の環境も再現(店内にある波の音など)。


正確な雑音を提供しているサウンドエンジンにより、それらを可能にしているのだ。


「元々は軍が実戦のシミュレーション用に使ってたやつなんだけどな。アタシが簡易的に使えるように改造したんだ。その気になればCPUの対戦相手も作り出せるぞ」


ハイフロアで見た太陽の光も。


本の中でしか知らなかった海や砂浜も。


まるで実際にそこにあるかのように見える。


「シェンリアがなにいっているかほとんどわからないけど。スゴイや! 店内を浜辺にしちゃうなんて!」


「さて、お次は料理と飲み物も楽しんでね~」


リーシーが大きいテーブルに食材を運んできた。


眩しい日差しの下に、次々と食材が並べられていく。


「一応雰囲気に合わせて、今日は中華風バーベキューにしたんだよ」


そのテーブルには、普段は店にないグリル機が設置されていた。


リーシーがいうに、なんでもメイユウにわざわざ作ってもらったそうだ。


「本当に作るのダルかったわ。というか、なんで海でバーベキューなの? わたしは高級ホテルの会食パーティー風にしてと希望したはずだけど」


「あん? みんなでメシ食うっつったら、これが一番って決まってんだよ」


「発想が古臭い女……。こんな最新式の機材を使えるくせに、頭の中は化石になっちゃってるのね」


「毎日部屋で寝ているだけの女に、化石とか言われたくねえな」


いつものように言い合いを始めそうになるメイユウとシェンリアだったが、すかさずシャンシャンが止めに入ったのですぐに収まった。


その間、リーシーは食材をグリル機の上に並べ始めていた。


串刺しにされた肉や野菜を、次々に火にかけて均等に焼いていく。


「はい! まずはランレイが食べてみて」


差し出された肉の串を持ったランレイ。


予め用意されていた五香粉ごこうふんのようなスパイスと、ラー油などが入った醤油ベースのソースからタレを選ぶことに。


「あッ、やっぱりこれもあるんだね……」


そして、当然というべきか。


ケッチャプとマスタードも用意されていて、ランレイは思わず苦笑いをした。


ランレイはラー油が入った醤油ベースのソースを選択。


早速焼き立ての肉を頬張る。


「焼き立ては美味しいね! このタレもウマウマだよ!」


「それはよかった。じゃあ、飲み物はこっちね」


リーシーは、肉の味を楽しむランレイにドリンクを出してきた。


レモンシロップと炭酸水をベースに、ローフロアではめずらしいグレープフルーツやキウイ、さらにはオレンジ、苺が切り分けて入っており、その上に小さなパラソルが乗せられたオリジナルのトロピカルドリンクだ。


ランレイはそのトロピカルドリンクにも感激。


甘さが控えなところが、辛いタレと合うと言っている。


「よし。ここは一つ、私がつるぎの舞でも披露しよう」


興が乗ってきたのか。


シャンシャンが急に立ち上がった。


そして、腕に付けていたデバイスを操作すると、そこから二本の短刀が現れて、それを握って優雅に踊り始める。


「古典舞踊か。いいね。ミュージックもかけてやるよ」


シェンリアが立体映像をクリックすると、静かながら色気のあるトライバルな音色が聞こえ始めた。


音楽とシャンシャンの動きが合わさり、さらに店内の景色に設定されている浜辺から楽器隊が映し出され、彼女の舞に色を添える。


ちなみに、シャンシャンが今踊っている舞の名は、“愛しのメイユウ”というらしい。


「うわぁ~! シャンシャンって踊りもできるんだ!」


「まあ……名前以外はいいわね」


シャンシャンの華麗なダンスを見て嬉しそうにしているランレイの横では、その舞いの名を聞いたメイユウが引き攣った笑みを見せていた。


「よ~し! では改めまして、みんなで乾杯しよう!」


それからリーシーが声をあげると、踊っていたシャンシャンが慌ててグラスを持ち、皆で笑いながら杯を重ね合うのだった。

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