第31話

それから数日後――。


メイユウとランレイは、自宅からリーシーの店『定食屋 飲みだおれ』へと向かっていた。


それは単純に夕食を取るためだ。


「ああ~なんか納得いかないなぁ」


不機嫌そうな顔で歩くランレイ。


メイユウはそんな彼女へ声をかける。


「あのねぇ。もうあれ以上にない幕引きだったでしょうが。それともなにかい? 他に何か良い方法でもあったっていうの?」


「でもさ~」


「でももヘチマも金もないの。ったく、元はと言えばあんたとシャンシャンのせいでこっちは迷惑かかってんだよ。おかげ無報酬で仕事しなきゃいけなくなってさ」


人狩りとの一件――。


その結末は彼らを見逃すことと、その用心棒であったルーファンの両手両足のウイルスの完全除去をするということで、一先ず決着がついた。


だが、ランレイは人狩り連中がまた現れて悪さをするのではないかと、その結末に納得がいっていないようだ。


今も眉間をしかめ、事あるごとにブスっとした表情を見せているのがその証拠である。


「それは悪かったと思っているけど……。でも、メイユウだったらあの用心棒の人を倒せたんじゃないの?」


ランレイは助けてもらったことに感謝はしていたが、メイユウ得意の、“面倒くさいから戦うことを止めた”という考えが捨てきれないでいた。


勝てる戦いもダルいという理由だけで放棄する――。


メイユウは、普段から必要最低限――食べていけるぶんしか働かないので、ランレイからそうだと疑われてもしょうがない。


「あんな連中なんて、やっつけちゃえばよかったのに……」


ここまでランレイが人狩りに対して怒りをみせる理由は、彼女が元は被害者だったからだと思われる。


だが、メイユウにとっては、ここローフロアよくいる小悪党の一味にしかすぎないので、彼らが再び悪事を働こうがあまり気にしていなかった。


「いい加減に機嫌直したら?」


「別に……機嫌悪くなんかないよ」


いつまでも不機嫌なランレイを見たメイユウは、大きくため息をつくと、ここ数日に何度も説明したことを話し始めた。


うちはジャンク屋であって、けして余所様と喧嘩してもうける稼業ではない。


物事には、何事にも落としどころというものがある。


あの場では、互いに戦わないことが一番良い選択だったのだ。


と、さも面倒くさそうにランレイに言う。


「金持ちケンカせずっていうしね」


「それ、何度も聞いたよ。でも、ジャンク屋うちは金持ちじゃないじゃん……ふん」


「ふんって、あんた……。いつからフンデレになったんだよ」


それでもランレイはプイっと顔をそらしてメイユウの先を歩いていく。


メイユウはそんな彼女の後ろを、呆れながらもただ追うのであった。


それからリーシーの店へと到着――。


「いらっしゃいませ! あッ、お二人さん。今日もいつものでいいよね?」


快活な声を出すリーシー。


店主拳看板娘というだけあって、彼女はいつでもどんなときでも笑顔と元気でいっぱいだ。


当然メイユウはいつもの焼き飯にトマトケチャップをぶっかけただけのもの――メイユウ·スペシャルと紹興酒を注文。


ランレイのほうも、いつも通りただの焼き飯を頼んだ。


「はいはい~、ただいまお作りしま~す! あッ、いらっしゃいませ~」


メイユウとランレイの注文が終わると、めずらしく他の客が入ってきた。


その客はランレイと同じくただの焼き飯を頼むと、カウンター席に座るメイユウの横のイスに腰を下ろした。


「さ、捜したぞメイユウ。私の運命の人よ」


その身と声をを震わせながらそう言った人物は、ローフロアの電脳武人――シャンシャンだった。


メイユウはシャンシャンを無視して、出された紹興酒をチビチビ飲み始めた。


だが、その程度のことではシャンシャンは怯まず、嬉しそうに話を続ける。


「シャンシャン。身体のほうはどう?」


そんなシャンシャンに気がついたランレイは、彼女の身体のことを訊ねた。


ルーファンのウイルスに侵されたランレイとシャンシャンの義体は、メイユウのおかげでウイルスの除去に成功。


ランレイのほうはもう何の後遺症もなかったが、シャンシャンのその後の経過が気になっていたのだろう。


「ああ、ランレイ。何も問題はないぞ。すこぶる快調だ。これも全部メイユウのおかげだぞ。改めて礼を言わせてくれ!」


そう大声を出したシャンシャンは、隣に座っているメイユウに抱きつこうとした。


それに気がついたメイユウは、ヒョイッと彼女をかわす。


そして、ポケットから出した電流が帯びる精密ドライバー、スタンドライバーをシャンシャンの首に突き刺した。


「ぎゃぁぁぁッ! し、痺れるぅぅぅ!」


「ああッ! シャンシャンがッ!?」


ランレイは、焦げた臭いを出しながら倒れたシャンシャンに慌てて駆け寄った。


そして、顔をメイユウのほうへとビクビクさせながら向ける。


「ただハグをしようとしただけなのに、酷くない?」


「あのねランレイ。わたしとってはねぇ。百合はやるものではなく観るものだと思ってるワケ。だからハグするならイケメンに限るんだよ」


出てきたメイユウ·スペシャルに、自前のトマトケチャップをさらにかけるメイユウは、そういうと目の前の真っ赤な焼き飯をかっ食らっていった。


「この痺れる感覚……恋というやつか……。やはりメイユウは私の運命の人……ガク……」


「あ~そのたとえちがうから。電機は体温が高いほど流れやすいってどっかの偉~い学者さんが言っていただけだから。て~ゆか、あんた心臓も機械じゃん」


「それよりメイユウはメシ食ってないでシャンシャンを直せッ!」


そう――。


動かなくなったシャンシャンの傍らで、大声で叫ぶランレイであった。

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