第30話

「始める? まさかあんたも『イチから――いえ、ゼロから!』とかいっちゃうの? 勘弁してよ。わたし、わりとそのセリフがトラウマになってんだから」


ルーファンは、そう言葉を返したメイユウへと飛びかかった。


二本の鈎が彼女の両手を刈り取ろうと襲ってくる。


だが、メイユウは持っていた長いモンキーレンチで、その双鈎ごとルーファンを振り払った。


ガキンと鈎とモンキーレンチがぶつかった金属音が鳴る。


すぐに後退したルーファンは、その表情を歪めた。


「ちょっとちょっと、危ないじゃないのよ。子どものときに人に刃物を向けてはいけませんって、学校の先生に教えてもらわなかったの?」


「そうだね。アタイは学校なんて行ったことないからなぁ」


「そいつは悪いこと言っちゃったね。なに、気にしなさんな。世の中学歴なんてなくても幸せに生きてる奴はいっぱいいるから。うんうん。我ながら良いこと言うな~わたし」


両手を組んでコクコクと頷くメイユウ。


彼女はどこかの誰かが言うような台詞を、まるで自分が考えたかのように自画自賛していた。


ルーファンは、今度は何も言わずに攻撃を仕掛ける。


だが、メイユウは先ほどと同じように、モンキーレンチで彼女を振り払った。


再びガキンと金属音が鳴ったが、ルーファンは後退せずにそのまま重なった鈎を押し、鍔迫り合いの形となった。


「そんなに怒らなくてもいいじゃん。なに、家庭事情だったの? それともヤンチャして学校なんて行ってられるかって感じだったの? ともかく謝るからさ。勘弁してください」


「よく喋る人だね。あんた、口から先に生まれたのかい?」


ルーファンは鍔迫り合いから鈎を離すと、そこから連続で斬りかかった。


先端にある湾曲した刃と三日月状の刃――合計四本の牙がメイユウへと迫って来る。


「下の口から生まれる? おいおい、近くに未成年がいるんだからその手の話はマズいでしょ? わたしもそういう話は嫌いじゃないけどさ」


ふざけたことを言いながらも、すべて捌いていくメイユウ。


そのやる気のなさそうな顔は変わらないが、彼女の額からは汗が流れ始めていた。


「面白いねえ、あんた。ジャンク屋のメイユウとか言ったっけ?」


「そうそう。機械のお悩みならいつでも店に来てね。今なら二割引きで引き受けてあげるよ。家電の修理から機械ペットやアンドロイドの捜索。なんでもござれってね」


そこからさらにモンキーレンチと双鈎が火花を散らし合う。


だが、そんな激しく打ち合うメイユウとルーファンをよそに。


人狩りの男たちは、動けないランレイとシャンシャンのほうへと向かっていた。


メイユウとルーファンが戦っているの間に、彼女たちを連れ攫ってしまうつもりだ。


「こりゃマズいんじゃないの? でも、あんたはアタイの相手をしなけりゃいけないしねぇ。さあ、どうするジャンク屋さん?」


「ああ~ダリーなぁ。ホントにダリー」


メイユウはそう言うと素早く後退。


ルーファンから距離を取る。


それから彼女は、お尻の部分にある腰袋へと手をやった。


「あっ、別にダリ―ってあんたに対してじゃないから。あそこで固まっているうちの猫とくっころ武人に対してだから」


そして、そこから出した精密ドライバーの束を握ると、ランレイとシャンシャンへ近づく人狩りたちに向かって投げつけた。


プラスドライバーもマイナスドライバーも、次々に人狩りたちの足へヒット。


全員がその場に崩れて悲鳴をあげる。


「わたしのお手製。スタンドライバーだよ。悪い子はたっぷりと痺れてね」


精密ドライバーが突き刺さった人狩りたちはもう歩けない。


何故ならばメイユウがいうスタンドライバーとは、グリップ以外のところに触れると痺れ、しばらく動けなくなるほどの電流が帯びるドライバーだからだ。


喰らった者はあまりの痛みと痺れに、しばらく行動不能となる。


「さてと、あんたの依頼主は寝ちゃったからさ。もうこっちもやめない?」


メイユウはそういうと、モンキーレンチを収めて両手をあげてルーファンへと近づいていった。


逆にルーファンは、先ほどのスタンドライバーを警戒してか、下がりながら身構える。


このやる気のないジャンク屋には、まだまだ予想だにしていないガジェットを隠し持っている可能性がある。


うかつには動けない。


と、ルーファンが思っていると――。


「よし。じゃあお互いがウィンウィンなるように、落としどころを考えますか」


メイユウは眠たそうな顔でそう言い、大きなあくびをするのであった。

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