第26話

それから人狩りが現れそうな場所を捜し回ったランレイだったが、シャンシャンが見つかることはなかった。


どこかシャンシャンが行きそうなところを――。


とも考えたが、ランレイは彼女のことをそこまでよく知っているわけではない。


「勢いで捜してみたけど、そんなに甘くないよなぁ……」


あれだけ元気に走り回っていたランレイだったが、自分の浅はかさにその機械猫の耳を垂れさせていた。


トボトボと歩く彼女の姿は、まるで捨てられた猫そのものだ。


「こんなことならシャンシャンがジャンク屋に来たときについていけばよかった……」


そうは思ってもすでに遅い。


ランレイはそんなことを考えても、無意味なことだとはわかっていたが、やめることはできなかった。


それからしばらくして、俯いて歩いていた彼女の前に水たまりが見えた。


「あたし……酷い顔してる……」


水たまりに映った自分の顔を見たランレイは、このままではいけないと顔を上げた。


そして、両足で立ちながら自分を奮い立たせる。


「ダメダメ! 落ち込んでいたってなにも変わらないよ!」


ランレイは、両手の肉球を掲げ、高く真っ暗なローフロアの天井に見つめながら叫ぶ。


「あたしは……天国にいるお父さんとお母さんが心配しないように、ずっと前を向いて生きるって決めたんだから!」


そのときだった。


ランレイが宣言するかのように叫んだ瞬間――。


目の前に四、五人の男が吹き飛んできた。


ランレイは驚きながらも心配そうに男たちの傍へと寄った。


「大丈夫ですか!?」


いきなり猫に声をかけられた男たちはかなり驚いていそうだった。


何も言わずに、ただランレイのことをウザったそうに見ている。


「ケガは!? 酷いケガはしてないですか!?」


ランレイはそんな態度をとられても、気にせずに男たちへと近寄っていく。


どうやら幸いなことに、男たちのケガは大したことなさそうだった。


だが、ランレイはその男たちの顔を見て気がつく。


「あなたたち……どこかで見たと思ったら、人狩りッ!?」


ランレイが気がついたとき、男たちは表情を強張らせた。


だが、それは彼女を見たからではない。


ゆっくりと男たちへと向かって来る――青龍偃月刀を持った女性を見たからだ。


「もう逃げられんぞ……人狩りども」


そこには全身義体の電脳武人――シャンシャンが立っていた。


彼女に気がついたランレイは、急いで傍へと走る。


「シャンシャン! 会えてよかったよ!」


「ランレイか? お前がどうしてどうしてこんなところにいるのだ?」


喜んでシャンシャンに飛び付いたランレイ。


シャンシャンが彼女を抱きかかえながら不思議そう訊ねていると、人狩りたちがマシンガンを構えた。


「いかん!? ランレイ!」


すぐに反応したシャンシャンは、飛んでくる銃弾の雨を自分の体を使って防ぐ。


「シャンシャン!? あたしを庇ったせいで!?」


「フフフ、この程度の銃弾で私が倒せるものか」


撃たれたシャンシャンは不敵に笑みを浮かべていた。


そして、この全身義体の身体は、弾丸など通さないと高らかに笑う。


「どうだ? それでもまだ私とやるつもりか? 大人しくこちらへ投降するのならば命までとらんぞ」


青龍偃月刀を突き立てながら、人狩りたちへ降伏するように言うシャンシャン。


もう人狩りたちも観念するしかないと思われたが――。


「こいつはいい。まさか噂に名高い電脳武人が相手とはね」


くだけた感じの声。


それも女性の声が聞こえた。


人狩りたちはその女性の元へと駆け寄り、彼女の後ろへと回る。


「なんだ貴様は? 私の邪魔をするつもりなら、ケガだけではすまないぞ」


「事情はよく知らないけど、こっちも仕事なんでね。でも、ケガですまないのは嫌だなぁ」


シャンシャンと向かい合った女性は、目隠しのようなゴーグルに手をかけると、笑みを浮かべて返事をした。

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