第25話
シャンシャンがジャンク屋メイユウへ来てから数日後――。
メイユウとランレイは『定食屋 飲みだおれ』へと来ていた。
メイユウが久しぶりに酒を飲みたいと言ったので、ランレイが彼女に付き合う形だ。
「え~と、メイユウスペシャルを二つでいいのかな?」
店主兼看板娘であるリーシーが、二人の注文を確認すると――。
「ああ、それで」
「よくねえよッ!」
ランレイは、大声で自分は普通の焼き飯にしてくれと頼んだ。
ちなみにメイユウスペシャルとは、焼き飯にトマトケッチャプを大量にかけただけの料理だ。
この店は定食屋を名乗っているというのに、メニューがほぼ焼き飯しかない(酒のツマミはあるが)。
なので、ランレイは普通の焼き飯を頼まざる得なかったのだ。
それからメイユウは、メイユウスペシャルと共に紹興酒も頼んだ。
そして、早速できあがった料理を紹興酒をチビチビ飲みながら食べ始める。
その隣の席にいるランレイは、機械猫の手でレンゲを持ち、器用に焼き飯をすくい始めていた。
「ねえメイユウ。シャンシャン、大丈夫かな……?」
「ヘーキヘーキ。ああ見えてあいつはタフだから」
心配そうに訊ねたランレイだったが、メイユウは適当な相づちを打って食べ飲み続けた。
それでもランレイは言葉を続けた。
シャンシャンと人狩りの集団は一度交戦し、彼女は逃げられたと言っていた。
それから人狩りの集団がシャンシャンに対して、何も対策をしていないとは考えられない。
ランレイはそう言うと、彼女に手を貸してあげたほうが良いのではないかと、メイユウへ伝えたが――。
「へーきへーき。何度も言っているように、あいつが誰かに殺されるなんて想像もできないね」
「冷たい……冷たいよメイユウ……。シャンシャンはあんなにあなたのことを慕っているのに……」
ランレイは呟くように言うと、焼き飯を残してカウンターのテーブルから飛び出した。
そして、そのまま店を出て行ってしまう。
「いいの? あの子、追いかけなくて?」
「追いかける? なんでわたしがそんなことしなきゃいけないんだよ。それよりもう一杯、紹興酒出して」
リーシーに訊かれたメイユウは、少し不機嫌そうにしながら、紹興酒を追加注文するのであった。
その頃、ランレイは――。
「メイユウったら酷い! 酷すぎるよ!」
一人、いや一匹でネオン看板が眩しい路上の中を歩いていた。
彼女も、今考えていることが自分勝手なことくらいはわかっている。
たしかにメイユウは人狩りとは関係ない。
手を貸して彼女が得することよりも損をすることのほうが多いだろう。
しかし、ランレイはメイユウに対しての怒りを抑えられないでいた。
メイユウはだらしない人間だが、善人だと思う。
死にかけていた自分やシャンシャンを助け、新しい身体をくれた恩人だ(まあ、強制的に借金を背負わされたが)。
普段は適当なことを言って、生きることにやる気もなく過ごしているが。
誰かが困っていたら必ず助ける人だと、ランレイは勝手に思っていた。
それなのに……。
そう思っていたのに……と――。
あんな冷たい言い方をするメイユウにランレイは、期待を裏切られたように感じていたのだった。
「よし! こうなったらメイユウなんかに頼むもんか! あたしがシャンシャンの力になるんだ!」
そう叫んだランレイは突然駆け出した。
周りにいた歩行者が驚いていることなど気にせずに、独り言を続けながら走る。
「なんだいありゃ!? 猫が叫びながら走っているぞ!」
「人工知能がぶっ壊れたのか!?」
などと、歩行者たちの声がランレイの背中にぶつけられていた。
このローフロアで脳を移した機械――元人間がめずらしいこともあったが、誰も話し相手がいないのに道端で猫が大声を出せば、誰でも驚くだろう。
だが、ランレイはそんなことを気にせずにシャンシャンを捜しに向かうのであった。
「メイユウのバカッ!」
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