第27話

目隠しのようなゴーグルをした女性の返事を聞いたシャンシャンは、何も言わずに青龍偃月刀を突いた。


その一撃はまさに稲妻のごとき速さで突かれたが、ゴーグルをした女性は余裕でかわしてみせる。


それを見たシャンシャンは、矛をおさめると、ゴーグルの女性へと声をかけた。


「今のをかわすか……。おい貴様、名を名乗れ。動きを見る限りかなり名のある者と見た」


高圧的に訊ねるシャンシャンに、ゴーグルの女性は嬉しそうに肩を揺らし始めた。


そして、ふらつきながらその口を開く。


「アタイの名は不能のルーファン。最近ローフロアに来たケチな用心棒さ」


「不能だと? ずいぶんと酷い二つ名だな」


そう答えたシャンシャンの言葉を聞いたルーファンは、さらに嬉しそうに笑った。


それからルーファンは、先の曲がった鉄棒のようなものを両手に持つ。


「ほう、虎頭双鈎ことうそうこうか。めずらしい得物を使うな」


虎頭双鈎とは――。


握り手の部分に三日月状の刃――月牙げつがが付いた、先端が内側に湾曲した刃が備わっている鉄棒を、両手に二本ずつ持って戦うスタイルのことだ。


その二本の横柱によって、握れば月牙が鉄甲のように外側を向くように作られており、刃部分の逆側の先にも槍のような突起がある。


まさに近距離で戦うために作られた武器だ。


「おやおや、物知りだね。さすがは電脳武人と呼ばれるだけのことはある」


「ふん。その二つ名が伊達ではないことをその身をもって教えてやる」


それぞれ言葉を交わし合ったシャンシャンとルーファンは、同時に仕掛けあった。


青龍偃月刀の幅の広い刃を、両手に持った双鈎で受け止めるルーファン。


その姿を見たシャンシャンは、さらに攻撃を繰り出していく。


「私の連撃を受けてみせるか。これは一筋縄ではいかなそうだ」


「どうやら電脳武人の名は伊達じゃなさそうだね。こりゃアタイじゃ勝てそうにないな」


互いに激しく矛をぶつけ合うと、二人は同時に後退する。


すると、ルーファンは双鈎を背中へと収めた。


「どうした? もう降参か?」


「いやなに、すこーしばかりやり方を変えようと思ってね」


そう言ったルーファンはどういうわけか、その場で激しく体を揺らし始めた。


何かの儀式か、それとも――。


不可解に思ったシャンシャンは、このままではいけないとユラユラと動くルーファンへと斬りかかった。


「来ると思ったよ」


「な、なにッ!?」


仕掛けてくることがわかっていたルーファンは、その直線的な動きを読んで、シャンシャンの体に抱きついた。


それを不快に思ったシャンシャンは、慌てて彼女を離れさせる。


「戦いの最中に百合の趣味をみせるか……。だが、残念だったな。私にはすでに身も心も捧げた女性がいるのだ!」


「百合の趣味は肯定するんだね……」


人差し指を突き立てながら高らかに言うシャンシャン。


そんな彼女を見たランレイは呆れながらボソッと呟いた。


「違うよ。アタイにそんな趣味はない」


笑みを浮かべながら揺れ続けているルーファン。


シャンシャンはその言葉を聞いて頬を赤く染めていた。


「なんだと!? くそッ! 私としたことがなんたる勘違いを!? くっ……殺せ!」


「あちゃー始まっちゃたよ……」


羞恥心を感じ――。


いつもの悪い癖が出ているシャンシャンを見たランレイは、また呆れるのだった。


だが次の瞬間に、呆れていた彼女は驚愕する。


「えッ!? シャンシャン!? どうしちゃったの!?」


「体が……動かん!?」


ルーファンに抱きつかれた部分から、シャンシャンの体は次第に黒く変色し、完全に動けなくなってしまった。


心配になったランレイは、慌てながらシャンシャンへと駆け寄ると、彼女が大声をあげる。


「ダメだ! 近寄るなランレイ! これは!」


「な、なにこれ!? あたしまで黒くなってる!?」


しかし、ときはすでに遅く。


ランレイの体もシャンシャンと同じように黒く変色し、動けなくなってしまう。


「あらあら、関係のない猫ちゃんも感染しちゃったね。まあ、いいけど」


そんな彼女たちを見たルーファンは、さらにユラユラと揺れるのであった。

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