第22話

それからバラバラになったシャンシャンの体を繋ぎ合わすため、工房での修理が始まった。


メイユウは、工房にあった台座にシャンシャンの四肢や胴体、顔を並べて、そこらに脱ぎ捨ててあった白衣を羽織る。


そして、小さく火花の散る電子メスを手に取ると、まずは首と胴体の結合部に手を伸ばす。


「この義体、まるで人間と同じだね。それにとってもキレイ」


ランレイが、その様子を見ながらポツリと言った。


そして、今は強制的に眠らされているシャンシャンの顔や体を見ながら、その造形の美しさに舌を巻いている。


メイユウは電子メスを動かしながら、ランレイを横目で見た。


「なに? あんたもこういう感じの体がほしいワケ?」


メイユウのいうこういう感じの体とは、シャンシャンの体のこと――。


ようするに手足が長く、胸や尻も平均的な女性よりも大きく、誰が見ても美しく見えるスタイルの良い義体のことだった。


さらに身長は背の高いメイユウよりもさらに高い。


メイユウにそう訊ねられたランレイは首を左右に振る。


「ううん。ただ、このキレイ顔もモデルみたいな体もシャンシャンのリクエストなのかなって思って」


「いや、違うよ。この義体のモデルはシャンシャン本人だ」


そう言ったメイユウは言葉を続けた。


なんでも彼女は、基本的に脳を機械の体に移したときには、脳の持ち主の造形そのままを全身義体にするらしい。


「えッ!? じゃあシャンシャンって人間のときからこんなキレイで手足が長くて胸も尻も大きかったのッ!?」


「おいおい。あまり興奮するな」


ランレイはメイユウの話を聞くまで、この美しい義体はシャンシャンが望んだものだと思っていた。


だが、どうやら本人の姿をそのままモデルにしていたようで、そのことに驚かずにはいられない。


「こんなキレイなのに……どうして自殺なんてしたんだろう……」


「まあ、さっきのを見ればわかると思うけど。こいつは残念美人だからねぇ。いや~ホントもったいない」


お前が言うなよ――。


ランレイはつい口に出してしまいそうになったが堪えた。


それは、ランレイから見れば、メイユウも充分スタイルもよく端整な顔をしているからだ。


それなのに、自堕落で怠け者を絵に描いたような生活をしているのだから、もったいないのはメイユウもだと思われてもしょうがない。


(ここは言わないでおこう。フフフ、あたしってば大人だ)


そしてランレイは、内心でほくそ笑むのだった。


「よし終わった。ランレイ、あんたはシャンシャンにこのケーブルを繋いでおいて。そうすればじきに目を覚ますから」


「えッ? メイユウはどこへ行くの?」


「そろそろお昼だろう? 今日はシャンシャンのぶんも用意しなきゃいけないし。わたしはキッチンへ行くよ」


そう言うとメイユウは、着ていた白衣をバサッと脱いで台所へと行ってしまった。


頼まれたランレイは、ヒョイッと台座の上へと飛び、言われたケーブルを掴んだ。


慣れてきたとはいえ猫の手を使っているせいか、フラフラと体を揺らしている。


「え~と、うなじのとこでいいんだよね」


それから自信なさそうにシャンシャンの顔を動かすランレイ。


ランレイも一応、ジャンク屋の助手として働くと決まってから、それとなくマニュアルを読んだりして簡単なことは勉強していた。


だが、実際にケーブルを繋いだりするのは今日が初めてで、少し緊張しているようだ。


「あった。これだね」


うなじの部分にはちょうどケーブルを差し込める穴のようなものが見えた。


ランレイは恐る恐るその穴にケーブルを差し込む。


すると、シャンシャンの体から重低音が鳴り始め、光が発せられた。


システムの再起動みたいなものだろうか。


ランレイはまだ理屈まではわからないので、光るシャンシャンのことをただ不安そうに見ていた。


「よし、完璧だな。さすがはメイユウ」


そして、ムクッと起き上がったシャンシャンは嬉しそうにそう言った。


それから体の動作に問題がないかを確かめるように、手や足を動かし、首を上下左右に振っている。


傍にいるランレイに気がついたシャンシャンは、不安そうにしている彼女に笑みを向ける。


「きみも手伝ってくれたのか猫くん?」


「う、うん。ケーブルを繋いだだけだけど」


「そうか。礼を言うぞ。これでまた街を守れる」


シャンシャンはそう言うと、ランレイの頭を優しく撫でた。


ランレイは、そんな彼女に向かって表情を強張らせる。


「あの……あたし、中身は一応人間なんですけど。それに猫くんって呼び方はやめてほしいなぁ」


そう言われたシャンシャンは、これはマズいことをしたと、両目を見開いて頭を下げた。


ランレイは、これから気を付けてくれればいいと、自身の名前をシャンシャンへ教えた。


「ランレイだな。よし覚えたぞ。それでちょっと訊きたいのだが」


「ああ、メイユウのことだね。彼女は今あたしたちの食事を用意するって言ってキッチンへ向かったよ」


「本当かッ!? 体も直してもらってさらに食事までごちそうになるとは。何から何まで申し訳ない」


「べ、別にあたしはいいんだけど。それよりもうできてるかもしれないからキッチンへ行ってみよう」


「御意」


そして、ランレイはシャンシャンへ着替えを渡し、二人は工房を後にした。

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