第21話

「で、この人は誰なの?」


バラバラ死体だと思っていた女性が突然喋り始めたので慌てたランレイだったが、彼女が自分と同じ機械の体だったと知って落ち着きを取り戻していた。


今は自宅であるジャンク屋の工房へと彼女を運び、メイユウから事情を聞いている。


「さあ? うちの前に捨ててあったから埋めていただけだよ」


小首を傾げてそう言うメイユウに、バラバラ死体と思われていた女性は大声を出す。


「酷いぞメイユウ! 私と君は切っても切れない間柄じゃないか!?」


「……って、言っているけど。どうなのメイユウ?」


顔だけの状態で喚く女性を横目に、ランレイがもう一度訊ねた。


首だけとなって自前のポニーテールを振るその姿は、なんだか音楽を聴くと踊り出すオモチャのようだ。


「しょうがない。メンドーだけど話すよ」


それからメイユウはダルそうに話を始めた。


バラバラ死体だと思われた女性の名はシャンシャン。


元はこのジャンク屋メイユウで助手をしていた人物だそうだ。


「ようはあんたの先輩ってワケ」


「じゃあ、その機械の体もメイユウが造ったやつなの?」


ランレイがそう訊ねると、シャンシャンはクククと笑い始めて会話に入って来る。


「そうだぞ猫くん。私の名はシャンシャン。元ジャンク屋メイユウで彼女の助手をしていた者だ」


「いや、それ今聞いたよ……」


シャンシャンは、呆れるランレイなど気にせずに話を続けた。


なんでもシャンシャンが世界に絶望して自殺したところ――。


かろうじて生きていて、たまたま通りかかったメイユウによってこのジャンク屋へと運ばれたそうだ。


「そこで私はこの肉体ボディ――全身義体の体を手に入れたというわけだ」


メイユウは、すでに心臓が動いていてなかったシャンシャン体から、その脳を取り出し、工房にあった組み上げたばかりの機械の体へと移した。


そして運よく手術は成功し、シャンシャンは甦ることができたのだそうだ。


「いいなぁ。あたしは猫の体なのに」


「別に、たまたまあった体を使っただけだから他意はないよ」


人間型の体のことを羨ましがるランレイに、メイユウがわざわざ意地悪をして機械猫の体を与えたわけではないと伝えた。


「そして私は電脳武人として、このローフロア守護神に生まれ変わったのだ!」


シャンシャンは二人が話しているにも関わらず、大声を出し続けた。


メイユウもランレイも辟易した顔をして、彼女のことを見ている。


「守護神……そんなのいたんだね」


「気にしないでいいよ。あくまで自称だから」


それからもシャンシャンは、その口を閉じることはなかった。


全身義体の体を手に入れてからのメイユウとの愛の日々や、そして助手としての活躍を誇らしげに語り続ける。


「一度死を受け入れたことで運命の人と出会う……。これほどロマンティックなことがあるだろうかッ!? メイユウは私にとって運命の人なんだ! この二人の絆はたとえ神でも引き裂けんぞ! 彼女の愛が私を武人の道へと導いてくれたんだ!」


「はい。そういうのいらないから。とりあえずなんでわたしの家の前でバラバラになっていたかを教えなさい」


メイユウは、興奮して話をドンドン広げていくシャンシャンに向かって、落ち着いて状況を話すように言った。


それから冷静さ取り戻すと、どうしてジャンク屋の前でバラバラになってしまっていたのかを説明し始める。


「実は、このところローフロアに現れた人狩りの連中を追っていたんだ」


人狩りとは、今シャンシャンが言ったように、最近ローフロアで無差別に住民を襲っている集団のことだ。


彼らは義体化していない人間の体を切り取っては、それを高値で売りさばいているらしい。


「人狩り……って、もしかしてあたしをさらった人たちかな?」


「どうもそれっぽいようだね。現れたのも最近みたいだし」


「それにしても切り取った他人の一部なんて売れるもんなの?」


このクーロンシティ――特にハイフロアに住む者たちの中には、ナチュラル志向とでもいうべきか。


人間の義体化を極端に嫌う者も多く、おそらくそういう人物たちに生身の人間のパーツを売っているのだろう。


シャンシャンはランレイにそう説明すると、その顔だけとなっている状態で俯いた。


「私はそんな犯罪者集団がこのローフロアをのさばっているなど許せず、早速パトロールを始めたのだ。だが……」


そして、人狩りの連中を見つけ出したのはよかったのだが、その戦闘に出し抜かれてしまってと言葉を続けた。


「じゃあ、バラバラになっていたのは人狩りの人たちにやられたの? 酷い……いくら機械の体だからって残酷だよ」


「きっとバラバラにして、シャンシャンの体に人間の部分がないか調べたんだね。全身義体ってローフロアじゃあまり見かけないから」


ランレイとメイユウが悲しそうにそう言うと――。


シャンシャンは顔をあげ、あっけらかんとした表情を見せていた。


「いや違うぞ。あれはメイユウのところへ相談しに行く途中――人狩りの連中に出し抜かれたことを思い出したら屈辱に耐えられなくて、このまま生き恥をさらすくらいならと自分でやってしまったんだ」


シャンシャンがバラバラになっていた理由は衝動的なものだったそうだ。


人狩りの連中に出し抜かれらのがかなり悔しかったのだろうか。


しかし、そんなことで自分の体をバラバラにするのはどうなのか。


ランレイは理解できずに彼女のことを見ていると――。


「わぁぁぁッ! 思い出したらまた衝動に駆られてきてしまった!」


突然首だけで暴れ始めた。


工房の中をシャンシャンの首が飛び回る。


「くっ……殺せ! 私は電脳武人……! 生きて辱めは受けん!」


暴れながら叫ぶシャンシャン。


そのせいで工房にあった器具や機械がドンドン破壊されていく。


「よし埋めよう。さっさと埋めよう」


「なッ!? ダメだよメイユウ! 落ち着いてッ!」


凄まじい殺意を放ちながら再びスコップを手にしたメイユウ。


ランレイはそんな怒りに満ちた彼女を見て、必死に止めるのだった。

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