第20話

バンシーに頼まれたガイノイドの捜索依頼から数日後――。


ランレイはメイユウに買い物を頼まれ、『グルメショップ 食いだおれ』からの帰り道を歩いていた。


彼女は機械猫のため、当然四足歩行。


そのことを考慮してか、買い物へ行くときのランレイの体には、荷物を入れることができるバスケット付きのパーツが設置されている。


「あ~歩きづらい」


独り文句を言いながら歩いて行くランレイはとても疲れていた。


それは、店で買った大量のトマトケチャップを、バスケットに入れていて重いからではない。


このところのランレイは、メイユウが眠るまで一緒に動画を見ているせいだ。


一昔前のパソコンで、何もせず、何も話さず、ただずっと動画を見続ける――。


いくらランレイの夢が、将来に物語を作る仕事をしたいとはいっても、今の技術とは比べものにならないくらい古い映像を、ひたすら観させられるのは拷問に近いだろう。


しかし、実際にはランレイ本人も勉強にはなっていると思っている。


「でも、古典クラシックを知っておくことも今後の役に立つよね」


想像もしなかったストーリー展開や世界観、設定。


自分では思いもしなかった思考を持つ登場人物やガジェット。


精神的に疲労するのはたしかだったが、ランレイ自身も学びながら楽しんではいた。


「勉強は楽しいからいいけど。あたし……いつになったら人間型の体を手に入れられるんだろう……」


まずはメイユウにこの機械猫の体の代金を払い、それからさらに人間型の体も入手したいランレイ。


そのため、バリバリ働いて少しでも早くメイユウへの借金を返したいところなのだが。


「バンシーのときから、仕事も一回くらいしか依頼なかったしなぁ……」


相変わらずジャンク屋メイユウに依頼はなく。


ランレイがいう一回あった依頼というのも、リーシーの店『定食屋 飲みだおれ』の冷蔵庫の修理くらいだった。


その報酬も、メイユウが散々ためたツケのせいで金にはならなかった。


今後に不安しかないと、ランレイは機械猫の耳を垂れさてトボトボと歩く。


「ううん。こんなことじゃダメだ。あたしは物語を作る。そのために落ち込んでなんかいられないよ!」


だがすぐに顔を上げて、意味もなく元気に走り出すのであった。


そして、ランレイが現在の我が家であるジャンク屋メイユウの店が見えてくると――。


「あれ? めずらしくメイユウが外に出てる。おーい」


ランレイが声をかけて近づいて行く。


メイユウは何故か店の前でスコップを使っていた。


相変わらずダルそうな彼女は、掘って積み上げたであろう土の山を、穴へと戻している。


どうも何かを埋めているようだ。


近づいたランレイが不思議そうに訊ねる。


「メイユウが外へ出ているなんてめずらしいね。一体なにを埋めてるの?」


「わたしの過去よ」


「へッ? 過去……?」


メイユウの言った意味のわからないランレイは、その埋めているものを覗き込むんでみた。


すると、そこにはバラバラになった手や足、そして人間の顔が埋まっているのが見える。


その顔や細い手足を見るに、どうやら女性のようだ。


「ギャァァァッ!? 死体だッ! なんでなんで!? メイユウがついに人殺しをッ!?」


「おい。ついに、とはなんだ」


埋まっていたものを見る限り、確実にバラバラになった人間だ。


ランレイは先ほどメイユウから直接聞いた、わたしの過去を埋めているという言葉と、この人を埋めている状況からいろいろと考えてしまう。


「そうか……。メイユウはこの人にお金を借りていて、それで借金を返せと押し掛けてきたから、勢いでやっちゃんだね」


「……あんたって、いつも最初は喚くわりに物事を俯瞰して見れるよね」


悲鳴をあげていたランレイが勝手に予想した現状を話し出すと、メイユウは目を細めて呆れた。


メイユウとランレイがそんな感じで話していると――。


当然、埋められていた女性の両目が開いた。


「な、なんだこれは!? 誰かッ! 早く出してくれッ!」


「えぇぇぇッ!? バラバラ死体が喋ったよ!?」


何故か目を覚ましたバラバラ死体の女性は慌てているようだった。


そして、そんな彼女よりもランレイのほうが大慌てを始めていた。


「チッ、起きちゃったか」


そんな二人を見たメイユウは舌打ちをして、とても不機嫌そうになっていた。

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