第19話
後日――。
ハイフロアから来るバンシーを迎えに行ったメイユウとランレイは、捜し出したガイノイドを引き渡した。
よほど嬉しかったのだろう。
バンシーはガイノイドを見ると、涙を流しながら彼女に抱きつく。
ガイノイドのほうも最初は申し訳なさそうにしていたが、喜びにその身を震わせていた。
「私のために……すみませんでした、ご主人……」
「いいんだ。お前が戻ってきてくれただけで、私は……」
感動の再会。
ランレイはそんなバンシーとガイノイドを見ながら笑みを浮かていた。
その隣にいたメイユウは、さもつまらなそうに突っ立っている。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
バンシーは、ガイノイドを抱きながら何度もメイユウたちに礼を言った。
すると、先ほどまでつまらなそうに突っ立っていたメイユウは、キリッしたものへとその表情を変える。
「気にしないでください。こちらが依頼されたことですから」
今日のメイユウは、いつも以上にメイクに気合が入っていた。
そして、その豊かな胸を寄せてバンシーの顔を覗き込む。
だから露骨にエロく媚びるなよ――。
そんなメイユウの姿を見たランレイは黙ってはいたが、その内心で絶対にこんな大人になってはいけないと思っていた。
「いえ、何度でも言わせてください。本当にありがとうございます。私もこれで覚悟が決まりました」
「へッ? 覚悟って?」
それからバンシーは、ガイノイドと結婚すると言い始めた。
共にハイフロアへと戻り、今やっている劇団を辞め、二人で新しい劇団を立ち上げるのだと。
「犯罪者扱いされている彼女との結婚――ましてや女性同士となるとかなり困難な道とはなりますが」
「えッ……?」
「私は成し遂げてみせます」
そして、バンシーは、ガイノイドに関する法律と戦い、いつか彼女との関係が世間に認めてもらえるまで諦めないと宣言した。
それを聞いたメイユウは、開いた口が塞がらないようだった。
その様子は、ある日に突然両親から、「実はお前は私たちの子ではないのだ」と言われたようだ。
メイユウは、何も反応できずにただ尽くしてしまっていた。
「これからいろいろ大変だとは思うのですけど。彼女――レオナのことは絶対に私が守ってみせます」
「えぇぇぇッ!?」
「私たちはここから始めます。イチから――いえ、ゼロから!」
「ちょっと!? なに鬼っ子メイドみたいなこと言ってんの!?」
それが、ランレイが初めて見たメイユウの突っ込みだった。
そう――。
端整で凛々しい顔をした依頼人バンシーは、実は女性だった。
彼女は幼い頃から舞台で男役をやっていたそうで、普段から男装していただけだったのだ。
舞台俳優が、私生活と演技の境目がなくなることなど、別にめずらしいことではない。
だが、メイユウにとってかなりのショックな出来事だったようだ。
その後に、報酬を受け取ったメイユウとランレイは、バンシーとレオナを見送ると、自宅へと向かっていた。
「まさかバンシーさんが女だったとは……」
「あれ? 気がついてなかったの?」
トボトボと足取りが重いメイユウ。
その様子を見るなり、バンシーが女性だったことが、かなりのショックだったことはわかる。
だがランレイから見れば、バンシーがたとえ男性だったとしても、メイユウに落とせる人物ではないと思っていた。
「だって、あんなリアルベルサイユを見たら誰でも惚れるでしょ。二.五次元だよあんなの」
「ごめん、言っている意味がよくわからない……。でもまあ、あたしも最初は男の人かと思ったけど、すぐに気がついたよ。それよりも前から言っているリアルベルサイユって、一体なんなの?」
「……どうやらあんたは物語を作りたいと言っているくせに、インプットのほうがおろそかのようだね。よし、今日からわたしが鍛えてやる。今夜は徹夜だ」
「え~ヤダよ。どうせまた動画を観るだけでしょ。あたし、確実に寝ちゃうもん」
「いいから早く帰るよ。リコピンがわたしを呼んでる」
「あッ! ちょっと待ってよメイユウッ!」
急に歩く速度をあげたメイユウの背中を、必死で追いかけるランレイであった。
そして、帰り道を走る中ランレイは、バンシーとレオナのことを考えた。
二人はこれからのほうが大変だ。
法律と戦うなんて並大抵のことじゃない。
だけど、応援してあげたいと。
「あッ、でもバンシーさんたちが困ったら、またあたしたちのところに来てくれるよね」
「いきなり何を言い出すんだこの機械猫は。でもまあ、どうだろうねぇ。わたしにはわからんよ。それとうちはジャンク屋だ。恋愛絡みは依頼はもう受けません。というか今回もそんな話とは思わんかったよ。次回から気をつけないとね」
「あ~仕事選んだらダメだよ。ただでさえ依頼が来ないんだから」
「いや、本来仕事は選ぶもんだ」
そして、そう嬉しそうにいうランレイの横で、怠そうに歩くメイユウが何故か笑みを浮かべていた。
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