第18話
「……どういう意味でしょうか?」
ガイノイドたちが同時にそういうと、メイユウは両腕を組んだ。
ランレイは彼女がいきなり何を言い出すのかと、わけがわからないでいた。
「だからさ。それだけ人間臭いあんたらなんだから、みんな同じ考えとは限らないよね?」
それから、メイユウは話を始めた。
あなたたちは、処分されることを拒んで、自ら溶鉱炉へと飛び降り自殺しようというガイノイドたちだ。
しかも、自分たちを処分しようとする人間たちに危害も加えたくない。
それは電子頭脳に人間だったときのモラルが残っていて、人を攻撃したくないと思っているからだ。
だから誰も傷つけずに、このまま静かに終わりを迎えたい――。
そんな、ずいぶんと人間臭いあなたたちなのだから、個人個人の考えもあるのではないか?
「あんたらは人間臭いのに、そこだけロボットっぽいってのもなんか変じゃないの? ガイノイドがこれだけいるんだ。一人、いや一体くらい自殺したくない奴もいなきゃおかしいよ」
「そんなことはありません。私たちは主人に迷惑をかけずに、このまま消えたいのです。それが私たちガイノイドの願いなのですから」
「ほう。じゃあ、なんでそこの奴は泣いているんだ?」
メイユウはそう言うと、人差し指を突き出した。
その指先には、一体のガイノイドが目から液体を流していた。
「えッ!? ガイノイドが泣いている……の……?」
ランレイは自分の目を疑った。
いくら人間臭いとはいっても、彼女たちは機械で作られたアンドロイドだ。
それなのに、そのガイノイドは涙を流しているのだ。
「そのガイノイドの主人は今でも帰りを待っていること知っている。だけど、仲間たちを裏切れない。そんな板ばさみなって電子頭脳が悲鳴をあげているんだよ、そいつは」
「……そう……なのですか……?」
そのメイユウの言葉を聞いたガイノイドたちが、急に言葉の歯切れが悪くなった。
先ほどまで統制のとれていた動きや声が、途端にバラバラになっていく。
それからガイノイドたちは個々の言葉を吐く。
うらやましい――。
ずるい、私の主人はそんな優しくなかった――。
なぜ彼女だけ――。
など、一体一体が自身の言葉で呟き始めていた。
「それでもあんたらはまだ集団自殺をするかい? だけど、それはあんたらガイノイドの存在に泥を塗る行為だと思うけどね、わたしは」
「私たち……私……わた……」
訊ねられたガイノイドたちはよほど追い詰められたのか、次々に溶鉱炉へと飛び降りていった。
ある一体はゆっくりと――。
またある一体は大急ぎで――など、それぞれがまったく違う動きを見せていた。
「メイユウッ! メイユウッ! なんとかしてよッ!」
「はいメイユウです。なんとかなるので猫はじっとしているように」
喚くランレイへ静かにするように言ったメイユウは、飛び降りていくガイノイドの集団の中へと歩いて行った。
そして、泣いているガイノイドの前へと立つと、その涙を拭った。
「さて、帰ろうか。バンシーさんがあんたの帰りを待ってる」
「しかし、私は……仲間たちと……」
「もうみんな自由なんだ。仲間たちもあんたも。それともあんたはバンシーのところへ帰りたくないのかい?」
「し、しかし……それでは主人に迷惑が……」
立ち尽くし、しかし、しかしと言葉を続けるガイノイドに――。
その間にも、仲間のガイノイドたちは次々に溶鉱炉へと飛び降りていく。
「そ、それに……やはり仲間が……」
メイユウはそんなガイノイドを見て大きくため息をつくと、彼女の顎をクイっと掴んだ。
「主人に会いたいの? 会いたくないの? どっちかはっきりしてくんない?」
顎を掴まれ、メイユウに睨みつけられたガイノイドはポツリと呟く。
「……会いたい……です……。私……主人に……バンシーに会いたい……」
「うん。素直でよろしい」
メイユウが掴んでいた手を離すと、ガイノイドはその場に膝から崩れて大声で泣き始めるのだった。
ランレイがそんなガイノイドに近寄り、彼女の体を優しく擦った。
「やったねメイユウ。これでバンシーさんも喜んでくれるよ」
「いや~長かったわ~。早く家に帰ってリコピンを摂取せんと疲れが残っちゃうわ~」
「リコピンは癌とか老化の予防にいいってだけで、疲労回復には効果ないと思うよ……」
そして、メイユウとランレイは、ガイノイドを連れ、自宅であるジャンク屋へと戻るのだった。
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