第17話

彼女たちは女性型のアンドロイドとして作られたものとしては、かなり初期のモデルである。


彼女たちを作った科学者は、若くして亡くなった恋人の人格と記憶をコピーし、電子頭脳へと移したことでより人間らしいガイノイドへとなったのだと。


「えッ、それって犯罪じゃないの? 人格のコピーは違法だって聞いたよ?」


「まあいるでしょうね。死んでしまった恋人が忘れられなくて、ロボットにして生き返らせようとする奴くらいは。どこにでもあるよくある話だよ」


驚いているランレイの隣にいるメイユウは、ありきたりなことだと、自分の耳の穴をほじりながら言った。


ガイノイドたちと同じように、機械猫の体へ人格と記憶を移しているランレイなのだが。


彼女の場合は脳だけはコンピューターではなく本物――ランレイ自身のものである(それでも違法には変わりないが)。


ランレイには死んだ人間を生き返らせようする科学者の気持ちがわからなかった。


両親はすでに死んでしまっているが、法律にふれてまで生き返そうとは考えない。


いや、むしろその行為は、死者への冒涜とさえ思っていた。


「でも、死んじゃった人のことをコピーするなんて……おかしいよぉ……」


ガイノイドたちは気にせず話を続ける。


その科学者が亡くなると、ガイノイドたちにあった恋人の人格と記憶も次第に薄れていった。


今では電子頭脳に、人間の女性が持つデータが残されているだけの状態。


「しかし、それでも私たちは愛され続けました」


その後――。


最初のガイノイドは、とある老夫婦に拾われ、まるで家族のような扱いを受けるようになる。


おそらくガイノイドが愛された理由は――。


科学者の恋人の人格と記憶がデータとしてあるため、販売されているどのヒューマノイドよりも人間臭かったからであろう。


その老夫婦が亡くなった後――。


ガイノイドはハイフロアの役所に回収され、大量のコピーを生み出し、市場へと出回った。


回収した役所の役員が人間臭さが残るガイノイドを見て、これは儲かるとでも思ったのだろう。


そして、その予想は的中した。


ある者は恋人として――。


ある者は家族として――。


ガイノイドは人間たちに愛され続けた。


「ですが。そんな時間も長くは続かなかったのです」


だが、その人間臭いガイノイドに疑問を持った者が、彼女たちの電子頭脳を調べ上げてその謎を解き明かした。


そのことでガイノイドたちを所有している者は、罪に問われることとなる。


人格と記憶を移されたヒューマノイドの生産は違法行為――。


それまで愛されていたガイノイドたちだったが、法律にふれるとわかると、所有者たちは彼女たちをすぐに捨て、処分するようになってしまった。


「酷い……それまで大事にしていたくせに……。そんなの酷すぎるよぉ……」


「そんなもんじゃない? 人間なんてさ。ようは誰でも自分が大事ってワケ」


居場所を失ったガイノイドたちはハイフロアから脱出し、ここローフロアへと集まった。


そこで彼女たちは決断した。


誰からも必要とされていない我々に存在価値はないと――。


「それで溶鉱炉へ集団自殺をしようって思ったワケね」


メイユウがそう言うと、ガイノイドたち一斉にコクッと頷いた。


変わらず軍隊のような統制のとれた動きだ。


そんなガイノイドたちを見たメイユウは、あくびをかきながらかったるそうに訊ねる。


「でもさ。集団自殺なんてメンドくさいことしないで、そのまま処分されればよかったんじゃない?」


「それは……自分たちでもよくわかりません。何故か処分されることに対して抵抗してしまうのです」


「だったら、その処分しようしてくる役人たちを片っ端から殺しちゃえば? 戦闘機能はなくても人間よりはるかに力持ちなんだし。楽勝でしょ?」


「できません……」


「なんで? だいたいヒューマノイドには自己防衛機能があったはずだけどねぇ」


「できません……」


一斉に無理だというガイノイドたち。


ランレイは思う。


このガイノイドたちは、処分をされることを嫌がっているのに、集団自殺をしようとしている。


酷い仕打ちを受けても仕返しなど考えずにいるのはロボットらしいのだが、やはり話に聞いていたように非常に人間臭いのだ。


(それがガイノイドたちの意思ってやつなんだろうけど。でも、バンシーさんはそれでも……)


そんな悩むランレイとダルそうにしているメイユウに、ガイノイドたちが一斉に頭を下げる。


「私たちの存在は今日この時刻を持って消滅します。最後に誰かとこうやって話ができて嬉しかったです。ありがとう……」


そして、丁寧にその気持ちを言葉にした。


「うんうん。いいじゃない」


「ちょっとメイユウッ!?」


何を言いだすんだとランレイは声を荒げた。


止めなければ仕事の依頼が駄目になるというのに――。


依頼人のバンシーは、ガイノイドを所有することが犯罪だとわかっていても帰ってきてほしいと望んでいるのに――。


メイユウはガイノイドたちを肯定し出したのだ。


彼女は喚くランレイの隣で、納得したといわんばかりに、コクコクと首を上下に振っている。


「ランレイッ! どうしてそんなこと言うんだよッ! あたしたちはバンシーさんの思いを――」


「人間臭いロボット。ひじょ~にいいね。でもさ。人間臭いあんたらならさ。中には自殺したくない奴もいるんじゃないの?」


そのメイユウの次の言葉で、ガイノイドたちはビクッと体を震わせた。

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