第16話
この工場の外観や入り組んだパイプや配線などを見る限り、元は製鉄所のようだった。
規模はそれほど大きくないが、地下に工場を作るなんて一体何を考えているのだと、ランレイは思う。
「ローフロアはただでさえ空気が悪いのに。どうして工場なんか作ったんだろうね?」
「さあ? でもまあ、ここの住人は自分のことしか考えない奴ばかりだから、当然といえば当然かも」
錆びたパイプをくぐり抜け、網目のような鉄の床へと切り替わる。
歩くたびにコツンコツンとなるその道を、さらに奥へと進んでいくメイユウとランレイ。
そしてしばらく進むと、奥に大きな釜のようなものがあった。
「溶鉱炉もまだ残っているのか」
「溶鉱炉? なんかあれ、燃えている水みたいだね。ひょっとしてあれはマグマってやつなの?」
「まあ、似たようなものだよ」
下を見下ろす二人。
釜の中を真っ赤な液体がうごめいている。
それはまるで、破棄されたことを呪うような気味の悪い動きだった。
溶鉱炉に与えられた使命は、安定した品質の鋼鉄を供給しつづけることである。
溶鉱炉はその構造上、一旦操業を開始したら、その寿命をまっとうするまで止めることはできない。
一昔前なら十年以上も安定して稼動しつづける溶鉱炉は、まさに最先端技術の結晶だった。
だがこのクーロンシティでは、鉄に代わる新たな金属が開発されたために、用済みになったこの製鉄所は破棄されたのだろう。
建物を破壊するのにも金がかかる。
だからこの製鉄所の所有者は、このように放置を選んだ。
メイユウはそう思うと、ふと口を開いた。
「なぜ高炉までこのままなのかは知らないけど、まだまだ仕事させろって感じだね、こいつは。あーイヤだイヤだ」
何年、何十年動き続けているかはわからないが、この溶鉱炉はまだ現役で使用できそうだった。
そんなワーカホリックな溶鉱炉を見たメイユウは、ウゲェッと舌を出している。
「もういいからここを出ようよ。何もなさそうだし」
「そうだねぇ」
と、二人が出て行こうとした瞬間――。
溶鉱炉の上に吊るされていた鎖が揺れ始めた。
何かが近づいて来る振動。
それも一人や二人ではない。
誰か来たのか?
それも集団で?
メイユウとランレイは咄嗟に近くの物陰に隠れた。
そして様子をうかがっていると、そこへガイノイドの集団が現れたのだった。
「こいつは運がいい。他の工場へ行く手間が省けたよ」
「でも、全部同じ顔をしているからどれがバンシーさんのガイノイドかわからないよ?」
小声で会話をするメイユウとランレイは、そんなことを話しながらガイノイドたちの様子を見ることにした。
それは、一体何故集まって工場を回っているのかを知るためだ。
するとどうしたことか、溶鉱炉の前で立ち止まったガイノイドたちが順番にゆっくりと飛び降りていくではないか。
だが、溶けた鉄では金属の塊を完全に溶かすことは難しいようで、ビチャッと落ちたガイノイドたちは無表情のまま、その体も端正な顔も少しずつ変形していった。
「メイユウ! ねえメイユウ! どうしようッ!? みんな落ちて溶けちゃうよッ!?」
「はい、メイユウです。どうにかします」
その光景を見たランレイが大騒ぎし出すと、メイユウはダルそうに隠れていた物陰からその姿をさらすのだった。
溶鉱炉へと飛び降りようとしていたガイノイドたちが、一斉に彼女のことを見つめた。
「はいはい、ちょっとストップね。そうそう、そのまま全員こっちにちゅうも~く」
メイユウがそう言うと、ガイノイドたちは、落ちた仲間を引き上げ始めた。
吊るされていた鎖を使い、次々に溶けて変形した仲間を、メイユウたちがいる網目の床へとあげていく。
「あなたは誰ですか?」
すべての仲間を引き上げると、ガイノイドたちは同時に声を発した。
その一秒のズレもない声のそろいかたは、攻撃的でもないのにずいぶんと威圧感があった。
「私たちは誰も使っていない工場に来たはずだったのですが。もしかしてここはあなたの所有する場所だったのでしょうか?」
すでに手足が溶けて原型を留めていないガイノイドも、他の仲間と同じように落ち着いた声でそう言った。
訊ねられたメイユウは左右に首を振って「いいえ」と答える。
「別にここはわたしのものじゃないよ。だからあんたらに文句はないし、邪魔もしたくないんだけど」
「だけど?」
「ちょっと聞かせてほしいんだよ。どうして集団で溶鉱炉へ飛び降りているのかをさぁ」
メイユウがそう言うと、ガイノイドたちは互いに顔を見合わせ始めた。
その仕草は人間がやるものと同じようだったが、ランレイには何か怖いものに見えたのだろう。
隠れていた物陰から出てきても、結局メイユウの足にその身を隠してプルプルと震えている。
「わかりました。あなた方には見届けてもらうことしましょう。私たちがしようとしていることを」
そして、ガイノイドたちはゆっくりと説明を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます